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それが運命の恋ならば
第5章 真実の口
桃馬の啜り泣きが聞こえる。
…それは生後間もなく亡くなった瞼の母ですらない…けれど紛れもなく唯一の母への切ないレクイエムのようだった。

「…桃馬さん…」
凪子も母を知らない。
けれど、その母の死に様をもし聞いたら、きっと桃馬と同じように涙を流すと思うのだ。

「…旦那様は気づいておられたのかもしれません。
雪乃様がご自分を道連れに心中されようとしていることを…。
けれどそれは、旦那様にとって何よりお幸せなことだったのかもしれません。
…なぜなら、ご一緒に亡くなることで、旦那様は雪乃様を永遠にご自分のものにできるのですから…。
雪乃様もまた、旦那様を愛せなかったことを謝罪なさるかのように、心中を選ばれたのかもしれません…」

「…お母様…!」
李人がその大きな手で端麗な貌を覆い、吼った声で低くその名を呼んだ。

暫く、大客間の壁に掛けられた古い柱時計の振り子の音のみが辺りに響いた。

「…李人様。
私がこのように哀しく残酷なお話を李人様と桃馬様の前でしなくてはならない理由はもうお分かりでしょう。
…雪乃様がその命に代えても守りたかったものは、高遠様なのです。
高遠様は、決して悪人でも卑劣な方でもありません。
…いいえ。
高遠様は、雪乃様を心底愛し、大切に守ろうとなさったお優しい方なのでございます。
お二人は、真実の愛によって結ばれていたのですよ…」

李人がゆっくりと、貌を上げた。





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