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それが運命の恋ならば
第5章 真実の口
「俺たちも行く」
部屋で待っていた桃馬と雄大が異口同音に声を上げた。

ケンは朝食後、旅館をあとにしていた。
「アタシは開店準備しなくちゃね。
…皆んな、元気出して!
夜にでもアタシのお好み焼き、食べに来なさい!
元気モリモリ出るからサ!」
と、盛大に投げキスしながら…。

「兄貴に言いたいことがある」
「俺も李人さんに確かめたいことがあるから」
桃馬と雄大は頑として譲らなかった。

トキは止めなかった。
「…では皆様、こちらへ」

…旅館の敷地の最奥、美しく整備された庭木の間にひっそりと隠れ家のようにその部屋は存在していた。
今朝、食事を給仕してくれた中居によると、普段は使われず貴賓室として特別な場合のみに使用されているようだった。

森閑と静まり返っている空間に、白檀の香のみが静かに薫っていた。

「…失礼いたします。
李人様。お連れいたしました」

トキが襖を開けた先に、背を向けて佇む李人のすらりと美しい後ろ姿があった。
…極上の仕立ての黒に近い灰色のスーツ姿…。
そして、部屋の隅には影のように禅が控えていた。
禅はいつもの庭師の黒い制服姿だ。
けれどその凛々しい貌に浮かぶものは硬質で、何ひとつ読み取れはしない。

李人が見つめる縁の先、椿の木の向こうには、穏やかな海が広がっている筈だ。
遠くで長閑な鴎の鳴き声が聞こえる。

…李人がゆっくりと振り返る。

息を呑むほどに美しいが、全く表情が推し量れない無機質な人形のような美貌だ。

「…皆、揃っているのですね。
それならば話は早い」

不思議な冷ややかな微笑を浮かべ、李人が淡々と告げた。

「凪子さんは今夜から、高遠家にお帰りなさい。
もう高遠氏とは話を付けてあります」

凪子は訳が分からず、長いまつ毛を瞬かせた。
「…李人様…?…あの…」

李人が苛立ったようにため息を吐いた。
「察しが悪いですね。
貴女とは離婚します。
今、顧問弁護士が手続きを進めています。
貴女は実の父親のもとにお帰りなさい」




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