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それが運命の恋ならば
第5章 真実の口
「…え…?」
凪子の桜色の口唇が震える。
李人の言葉が何一つ理解できない。

そんな凪子を憐れむように、李人は切長の眼を細める。
「貴女とは離婚します。
高遠氏は私の敵ではなかった。
だから、貴女を私の妻にしておく理由もなくなりました。
貴女と私と繋ぐものは何もなくなったからです。
不純な動機で貴女を妻に迎えたことは、私に責任があります。
慰謝料でしたら貴女の望む額をそのままお支払いしましょう。
弁護士にご相談いただければ…」

「…兄貴…何言ってんだよ…。
本気で言ってんのかよ…」
怒りに震える桃馬の声が響く。

李人は端正な唇を歪め、笑った。
「冗談でこんなことが言えるか。
…まあ、まだ結婚してほんの数ヶ月だ。
別れるなら早い方がお互いのためだ」

桃馬が唸りながら李人に胸ぐらを掴む。
「なんで離婚すんだよ⁈
凪子ちゃんが何したってんだよ!」

李人は貌色一つ変えずに、桃馬を見下ろした。
「凪子さんに落ち度はない。
けれど、私の妻でいる理由もない。
だから高遠氏のもとに返すのだよ」

今まで黙っていた雄大が李人に踊りかかり、力任せに殴りつけた。
意外なほどに無抵抗な李人がそのまま縁に倒れ込む。

「雄ちゃん!やめて!」
凪子が叫んだ。

「あんたなあ!凪子は犬や猫やないんや!
復讐する理由がなくなったからポイか!?
会ったこともない父親んとこにいきなり押し付けるんか⁈
凪子のことをなんやと思うとるんや!!
凪子はなあ、小さな頃からあの寂しい尼寺で厳しい尼さんに育てられて、学校では揶揄われて、ずっと我慢して我慢して生きてきたんや!
その凪子が、ようやっと自分の居場所を見つけられたゆうて嬉しそうにあんたの嫁さんになったんやないか!
その凪子を何やと思うとるんや!!」
雄大は李人に馬乗りになり、尚も殴りかかる。

「俺はあんたを許さへん!絶対に許さへん!」

雄大のもとに駆け寄り、凪子がその背中にしがみつく。
「やめて!もうやめて雄ちゃん…!お願い…!」

凪子の啜り泣きを聞いて、雄大の手が止まる。

「…凪子…。
お前、なんでこんなヤツのために泣きよるんや…」

凪子はその場に膝を突き、嗚咽を漏らした。

「…もういい…もういいの…」

李人が雄大の手を払い除け、立ち上がると冷たく告げた。

「早く用意なさい。
…高遠氏は貴女に会うのを待ち焦がれている」

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