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それが運命の恋ならば
第5章 真実の口
…夜の帳が下りた庭園は、暗く、足元も覚束ない。
月明かりだけが頼りだ。

…今夜は、新月なのだ。
静かに聴こえるのは、波の音…。
まるで優しい子守唄みたいに、寄せては返す…。
…子守唄など、本当は聴いたことはないのだけれど…。
凪子は寂しく微笑む。

汐風が微かに香り、凪子は深く呼吸をする。

月見台に上がり、夜の海を眺める。
…大好きな風景だった。
辛かったとき、嬉しかったとき、ここに来て海を眺めた。

まだ数ヶ月なのに、まるで心の故郷のように、凪子の心に定着していたのだ。

…もう、この景色を見ることはないのだ…。

凪子の心に寂寥感がひたひたと忍び寄る。

…いや、一番寂しいのは…。

そのことを考えると、胸が張り裂けそうになる。
けれど、それを口にするわけにはいかない。
なぜならそのひとに、自分はもう必要とされていないからだ。

…もう、私は…あの方に必要とされていないのだ。
求められていないのだ。
愛されていないことは分かっていた。
憎しみだけで、私を娶られたのだから…。
その憎しみが消え去り、あの方の心にはもう私の居場所はないのだ。
何処にも…。

涙が溢れ、凪子の白い頰を濡らす。

「…李人様…」
思わず小さく叫ぶ。

…その時、月見台の柱の向こうに、大きな人影が現れた。

はっと息を呑む。

…月の光が、男の貌をそっと照らした。

「…禅さん…」





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