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それが運命の恋ならば
第5章 真実の口
禅は黒い縞の着流し姿だった。
長い髪を後ろに一つに結び、超然と佇むその姿は、まるで禁欲的な侍のような凛々しさだ。

「…奥様…」
禅が哀しげにその深い海の色の瞳を瞬かせた。

「…もう、奥様じゃないわ…」
凪子は笑おうとして上手くいかず、そのまま俯いた。

「…では、凪子様」
再び貌を上げたとき、男は驚くほど間近に立っていた。
「…母が…申し訳ありませんでした」
「…え?」

禅が苦しげに続ける。
「母はなんとか李人様と凪子様が曇りなくお幸せになっていただきたくて、真実を話そうと決意したのです。
けれど…まさかこんなことになるとは…」

凪子は首を振る。
「いとさんは何も悪くないわ。
そう…ひとは真実から眼を背けてはいけないのよ。
…私は…李人様のお嫁様に相応しくはなかった…。
それが真実なのだわ…」

微かに微笑み、見上げる凪子を、男の強く逞しい腕が引き寄せ、激しく抱き竦められた。

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