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それが運命の恋ならば
第5章 真実の口
「…あ…んん…っ…」
…禅の口づけは、李人とは全く違った。

李人の口づけは、どこまでも大人で、技巧に長けていた。
凪子の淫らな反応を引き出そうとするような、余裕にすら満ちたものだった。
けれど禅のそれは、肉食獣が獲物にむしゃぶりつくような、野性的で荒々しい口づけだった。

「…ああ…っ…ん…っ…」
肉厚な舌が、凪子の震える舌を絡めとり、弄り、千切らんばかりに吸う。
「…凪子様…!」
角度を変え、何度も求められる。
熱い舌が凪子の口内を余すところなく、蹂躙する。

「…愛している…」
「…禅さ…ん…」
凪子の白くか細い腕が、禅の頑強な広い背中に回される。
そのまま、甘く熟れた快楽の蜜に溺れそうになる…。

…と、母屋の奥から、トキの声が聞こえてきた。

「…凪子様…凪子様…。
どちらにおられますか…?
お迎えのお車が参りました…」

はっと我に帰り、咄嗟に男の腕を振り解く。

後退りし、背を向けた。

「凪子様…!俺は…!」

涙が溢れそうになるのを懸命に堪える。

背を向けたまま、感情が籠らないように口を開く。

「…お別れです…。禅さん…」

「凪子様…!待ってください…!」
大きな手に腕を掴まれ、全身に震えが走る。
けれど、敢えて冷たく振り払う。

「…どうぞ、お元気で…」

母屋に足早に歩きかけ…、堪え切れずに振り返った。

「…貴方にお会いできて、良かったです…」

禅の美しい深い夜の海の色の瞳が、見開かれた。

…だって…私は…

その先の言葉は、凪子の心の中で、そっと呟かれたのだ…。
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