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それが運命の恋ならば
第5章 真実の口
最後にいとに別れの挨拶をする。
「…凪子様…。
私があのようなことを申し上げたばかりに…」
いとは頭を深く下げ、涙を流した。
凪子はすぐさま首を振った。
「いいえ、いとさん。
貴女のせいではありません」
「でも…」

きっぱりと否定する。
「いいえ。
…私は真実をいとさんのお口から聞けて良かったと思っております。
高遠様は、悪人ではなかった。
…それを聞けて、やはり嬉しかったのです」
「…凪子様…」
「私は高遠様が…自分の父親が優しい方だと分かり、安堵しております。
…ありがとうございます。いとさん」
禅に良く似た意思的な眼差しが凪子を捉える。
「…私は、李人様と凪子様にお幸せになって欲しかったのです…。
凪子様は、李人様の奥様に相応しいお美しく素晴らしいお方だから…」
凪子は静かに微笑う。
「…もう、良いのです。
李人様には、私などよりもっと相応しい方がいらっしゃるでしょう…」
…そう思うと、果てしない哀しみに沈み込んでしまいそうになるけれど…。

そのままお辞儀を返し、通り過ぎようとした刹那、いとが小さな声で囁いた。

「…禅も、凪子様を愛しているようです。
あんなにも苦しそうな息子の貌を、私は初めて見ました…」
凪子は一瞬だけ立ち止まる。
…禅の熱く激しい口づけが生々しく甦る。
身体の中から、ぐらぐらと揺れそうな感情に襲われる。
凪子は思わず眼を閉じた。
やがて振り向かずに、告げた。

「…禅さんにも、もうお目にかかることはありません…」
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