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それが運命の恋ならば
第6章 新たなる運命
疲れが出てはいけないと主治医の指示で、泰彦は寝台に戻った。
けれど、彼は凪子の手を片時も離そうとはしなかった。
凪子を傍らに置き、瞬きをするのも惜しいというように愛おしげに見つめ、その艶やかな髪を優しく撫でながら昔語りをぽつりぽつりと始めた。

「…君は当時、私の屋敷で働いていたメイドの朱音との間に出来た子どもなのだよ…」
「…あかね…さん…」
「そう。君の母親の名前だ。
麻乃朱音…。
優しくて働き者で…そしてとても美しい娘だった。
…私はその頃、雪乃との道ならぬ恋に悩んでいた。
妻との折り合いも悪く、精神的に疲れ果てていた…。
そんな時、朱音が私を好きだと告白してくれて、そして私の心を慰めてくれたのだ…」

…朱音…。
綺麗で優しいひとだったんだわ…。
なんだか嬉しいと、凪子は静かに微笑んだ。

「…とても控えめな女性でね。
『私は旦那様のお側にいられるだけで幸せです』と言って微笑むようなひとだった。
君を孕ったことも私には告げなかった。
きっと私を煩わせると思ったのだろう。
…身勝手な話に思われるだろうが、私は朱音が愛おしかった…。
男女の関係になったのだから、きちんと責任を持つつもりで、彼女の住む家も用意しようとしていた。
…何しろ、妻はとにかく嫉妬深いひとだったからね。
このまま屋敷に置いておくと、彼女に何をするか分からない。
…けれど、朱音は何もいらないと固辞したのだ。
自分はメイドの仕事も好きだし、この屋敷も好きだ。
何より私の傍にいたい…と。
…そこで、私は彼女にカメオのペンダントを贈ったのだ。
それは高遠家本家に代々受け継がれてきた伝統あるカメオだった。
それを私は感謝の証として彼女に渡したのだ…」

「…カメオ…?」
凪子ははっと息を呑み、ブラウスの胸元を押さえた。

「…私…持っています…。
私を育ててくれた庵主さんに『これだけは肌身離さず持っていなさい』ときつく言われて…」



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