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それが運命の恋ならば
第6章 新たなる運命
泰彦は李人とそれより数年前、都内のホテルのパーティーで偶然貌を合わせていた。

雪乃に良く似た端麗な美貌の青年ぶりに思わず眼を奪われた。
事実を知らぬホテルのオーナーに紹介され、対面したふたりは無言で向き合った。
泰彦は改めて挨拶をしようと歩み寄り、口を開きかけた。

しかし、李人の瞳には冷たい憎悪の炎が燃えあがっていた。

「私は貴方を赦しません。
母は貴方のせいで父に虐げられ、苦しみと哀しみのうちに事故で亡くなったのです。
私の両親の仲を、家庭をめちゃくちゃにしたのは貴方だ…!」

そう美しい眼差しで睨みつけるように言うと、彼は悄然とその場を立ち去った。

泰彦は愕然とした。
恐らく李人は父親に嘘の事実を吹き込まれたのだろう。
泰彦と雪乃の仲を嫉妬し、逆上した父親…。
常軌を逸したほどに雪乃に執着していたあの男ならやりかねない。

…けれど…。

泰彦はため息を吐いた。
仕方のないことだ。
かつては恋人同士で結婚の約束までしていたとはいえ、人妻であった雪乃と再会し、再び愛してしまった泰彦に非はある。
確かに、自分さえいなければ、李人は冷たい家庭に苦しむことはなかったのだ。
自分が彼の心に耐え難い鬱屈を与えてしまったのだ。

もし、真実を話したとしたら、更に傷つくのは彼なのだ。
…これ以上、雪乃の息子を傷つけるのはやめよう…。
それは雪乃の本意ではないはずだ。
そう決意し、泰彦は李人と二度と会わないことを決意したのだ。


けれど、運命はそれを許してはくれなかった…。

泰彦は、窓の外を眺める。
特別室からは、中庭が見下ろせた。
院内の売店で店員と笑顔で話す凪子の姿が見えた。
可憐な花のような笑顔だ。

…凪子…。
泰彦は再びため息を吐いた。

…お前は、彼をまだ愛しているのだね…。

そして、李人は…。

凪子を泰彦に返すと告げたのち、彼は静かに付け加えた。

『…私には、もう凪子さんの夫でいる資格はないのです…。
彼女をこれ以上、不幸にする訳にはいきません』

余りに苦し気な声だった。
あの声は愛していて、だからこそ離れなくてはならないことを決意した声だ。
泰彦には分かった。

複雑に絡み合う運命の糸…。
それは、凪子を散々苦しめたのだろう。
雪乃の息子は、それを感じ取り、凪子を解放したのだ。

…だから…

泰彦は、李人のその言葉をそっと胸に仕舞ったのだ。
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