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それが運命の恋ならば
第6章 新たなる運命
陽当たりの良いカフェスペースで、凪子はぼんやりと中庭を眺めていた。
緑豊かなその風景は、凡そ病院の院内とはかけ離れている。
…広大な大学病院のカフェには、通院のひとたちはもとより、お見舞い客や隣接する医大の学生たちも利用するので、さながら街のカフェのように明るく賑やかだ。
…売店で買い物をしていると、泰彦の身の回りのものを携えた家政婦の律と遭遇した。
きちりと家政婦の制服を着込んだ律は、それでも柔らかな笑みを見せた。
…そして、
『お嬢様、お茶でも召し上がって少しご休憩なさいませ。
あまり根をおつめになると、お嬢様のお身体に触ります。
…旦那様のことは私が責任を持ってお世話いたしますので』
そう声を掛けてくれたのだ。
律は厳しく禁欲的な性格の一方、実はとても優しい人物だ。
凪子のことを、すぐさま泰彦の娘と認めてくれた上に、恭しく敬意を払って接してくれる。
それゆえ、ほかの使用人も律に倣い、凪子に丁重に仕えてくれるのだ。
律の言葉に甘えて、凪子はロイヤルミルクティを飲み、ひと息吐いていた。
確かに、泰彦の入院以来、凪子はずっと付き添い、病室に詰めていた。
家に帰宅するのは、必要なものを取りに行くくらいだ。
だから、
外の空気に触れることも稀だ。
疲れていないと言えば嘘になる。
けれど、凪子は忙しい方が良かったのだ。
…忙しい方が、あの方のことを考えなくて済むもの…。
こんなふうにぼんやりする時間ができると、思い出すのは李人のことだ。
…李人様…。
どうされているかしら…。
考えると、胸がちりちりと焼け付くように痛む。
一之瀬家を出てから早数ヶ月…。
もちろん、李人からは何の便りも連絡もない。
…もう、私のことなどとっくに忘れてしまわれたのね…。
凪子は寂しげに眼を伏せる。
…そんなこと…分かりきっていたことではないか…。
凪子は思いを振り切るように首を振り、残りのお茶に口をつけた。
…と、その時…。
カフェの入り口から賑やかな声が一斉に飛んだ。
「あ!いたいた!凪子ちゃん〜!」
「ケン!待て待て!俺が先だ。凪子ちゃん!」
「何言っとるんや。俺のが先や。新参者め。凪子!」
思わず立ち上がり、眼を見張る。
「桃馬さん…!雄ちゃん…!ケンさんまで…!」
緑豊かなその風景は、凡そ病院の院内とはかけ離れている。
…広大な大学病院のカフェには、通院のひとたちはもとより、お見舞い客や隣接する医大の学生たちも利用するので、さながら街のカフェのように明るく賑やかだ。
…売店で買い物をしていると、泰彦の身の回りのものを携えた家政婦の律と遭遇した。
きちりと家政婦の制服を着込んだ律は、それでも柔らかな笑みを見せた。
…そして、
『お嬢様、お茶でも召し上がって少しご休憩なさいませ。
あまり根をおつめになると、お嬢様のお身体に触ります。
…旦那様のことは私が責任を持ってお世話いたしますので』
そう声を掛けてくれたのだ。
律は厳しく禁欲的な性格の一方、実はとても優しい人物だ。
凪子のことを、すぐさま泰彦の娘と認めてくれた上に、恭しく敬意を払って接してくれる。
それゆえ、ほかの使用人も律に倣い、凪子に丁重に仕えてくれるのだ。
律の言葉に甘えて、凪子はロイヤルミルクティを飲み、ひと息吐いていた。
確かに、泰彦の入院以来、凪子はずっと付き添い、病室に詰めていた。
家に帰宅するのは、必要なものを取りに行くくらいだ。
だから、
外の空気に触れることも稀だ。
疲れていないと言えば嘘になる。
けれど、凪子は忙しい方が良かったのだ。
…忙しい方が、あの方のことを考えなくて済むもの…。
こんなふうにぼんやりする時間ができると、思い出すのは李人のことだ。
…李人様…。
どうされているかしら…。
考えると、胸がちりちりと焼け付くように痛む。
一之瀬家を出てから早数ヶ月…。
もちろん、李人からは何の便りも連絡もない。
…もう、私のことなどとっくに忘れてしまわれたのね…。
凪子は寂しげに眼を伏せる。
…そんなこと…分かりきっていたことではないか…。
凪子は思いを振り切るように首を振り、残りのお茶に口をつけた。
…と、その時…。
カフェの入り口から賑やかな声が一斉に飛んだ。
「あ!いたいた!凪子ちゃん〜!」
「ケン!待て待て!俺が先だ。凪子ちゃん!」
「何言っとるんや。俺のが先や。新参者め。凪子!」
思わず立ち上がり、眼を見張る。
「桃馬さん…!雄ちゃん…!ケンさんまで…!」