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それが運命の恋ならば
第1章 出逢い
湯浴みののちに、トキが用意してくれていたものは、真っ白な絹の夜着だった。
縮緬のしごきも白…と、まるで花嫁衣装のようだ。
本当の挙式は、明日だ。

今夜は挙式前夜ということで、新居の夫婦の小食堂で李人と二人だけで夕食を共にした。
海の町ならではの新鮮な刺身や鯛の煮付け、山菜の炊き合わせや新筍の炊き込みご飯など、シンプルな料理が驚くほどに美味しかった。
尼寺での味気ない簡素な料理とは天と地ほどの差だ。
何より、李人が何くれとなく凪子の世話を焼いてくれたのが嬉しかった。

『これから凪子さんの好物をたくさん教えて下さいね。
料理人に伝えておきますよ』
李人は凪子に杏子酒を勧めながら、微笑んだ。

『…私は…李人様とご一緒にお食事できましたら、それだけで嬉しいです』
勇気を出して告げてみた。

『…本当に可愛いひとだ…』
李人の手が、凪子の頰を愛おしげに撫でた。
一瞬にして、白い頰が朱に染まったのは、杏子酒だけのせいではないはずだ。

…優しくて、美しくて、頼もしい夫…。

本当に、幸せだわ…。
描いていたささやかな幸せを、遥かに超えて…。

…幸せに…なれるんだわ…。

凪子は涙ぐみそうになり、そっと俯いたのだ…。




…凪子は上等の正絹の夜具の脇に、緊張しながら正座していた。

…隣室の和室でトキに髪を乾かしてもらい、梳いてもらった。
白粉を軽く叩かれ、口唇には京紅を丁寧に塗られた。

『…凪子様。
…何もご心配はいりません。
旦那様にすべてお任せなさいませ…』

そして、ふと、温かな…やや同情めいた口調で付け加えた。

…それが、凪子様の平穏なお幸せに繋がるのですから…。

「…あの…」
思わず正体不明な不安に駆られたとき、静かに襖が開けられた。

李人が、現れたのだ。


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