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それが運命の恋ならば
第7章 その薔薇の名前は
…確かに見事な薔薇園だった。
泰彦が言った通りだ。
薔薇作りは手間もお金も掛かるという…。
それをまだ若い当主が作り上げ、管理していることにも驚く。

…分家と泰彦は言っていたが、この広大な敷地と屋敷は相当な財産なのではないだろうか…。
先ほどの家政婦以外にも、立ち働いている使用人も数多くいるようだった。

…麗かな、初夏の午後…。
樹々の小鳥の囀り…
蜜蜂がのんびりと遠くで羽音を立てる。
美しい庭園は、心を広やかに開放してゆくようだった。
少しずつ緊張から解き放たれ、凪子はほっとした気持ちで息をつく。

…まだこの家の当主は現れないようだ。
凪子はパーゴラに掛かるペールピンクの薔薇を見上げ、遠慮勝ちに辺りを散策する。

広い庭園の殆どが薔薇園なのでは…と思わせるような風景がまるで印象派の絵画のように彩り美しく、耽美的に広がっていた。
薔薇の名前を知らない凪子は、ただその色鮮やかで多種多様な薔薇たちの競演に酔いしれる。

…どれも美しいけれど…

凪子は一際華やかで、一際薫り高い薔薇の垣根に近づく。

…それは大輪の花で、蕾の中心にゆくほどにその薔薇色が濃く色づいているものだった。
牡丹のように花弁が幾重にも重なり合い、その甘く華やかな薫りはまるで天然の香水のようだった…。

「…なんて良い薫り…」
そっと近づき、薔薇に貌を寄せる。

うっとりと眼を閉じていると…

「…これは驚いた…。
本物の薔薇の妖精が現れたのかと思いましたよ…」

低音のよく通る美しい声が、唄うように響いたのだ。
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