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それが運命の恋ならば
第7章 その薔薇の名前は
挨拶を交わしたのち、青年…高遠千晴に優雅にエスコートされながら、凪子はテーブルに着いた。

見計らったようなタイミングで、家政婦の七重が現れ、恭しく薫り高いダージリンを美しい蒼色が特徴の茶器に注いだ。
三段の銀の盆に載せられたサンドイッチ、プチケーキ、スコーンを流れるような所作で置くと、丁寧な一礼ののち、再び彼女は姿を消した。

千晴は穏やかにさりげなくアフタヌーンティーの菓子などを勧める。
「どうぞお召し上がりください。
よろしければぜひこのスコーンも。
こちらのスコーンはイギリス仕込みの料理長のハンドメイドです。
クロテッドクリームと蜂蜜をたっぷりかけると美味しいですよ」
「ありがとうございます…」
凪子がやや硬い動作でティーカップを手に取り、口をつけたのを優しく見守る。

「…美味しいです…」
千晴はにっこりと笑った。
「それは良かった…」
そうして、凪子が行儀良くカップをソーサーに戻したのをしおに、のんびりとした口調で口を開いた。

「ねえ、凪子さん」
「…はい…」
「今日は私と凪子さんのお見合いだとご存知でしたか?」
「え?」
驚きのあまり手が震え、がちゃりと茶器が無作法な音を立てた。

千晴は朗らかな笑い声を立てる。
「…泰彦叔父様も悪戯な方だ。
私と凪子さんはいとこ同士なのに…ねえ?」
やや面白がるように貌を覗き込まれ、羞恥の余り凪子は白く細い頸を朱に染めた。
「…尤も、いとこ同士の結婚は法律でも認められていますからね。
何の問題もありませんけれど」
琥珀色の瞳が、艶めいて凪子を見つめていた。

「…わ、私…」
慌てて立ち上がり、後退りする。
「お見合いなんて…困ります。
私…どなたとも結婚する気持ちはないのです。
すみません…失礼いたします」
頭を深く下げ、そのまま立ち去ろうとした手をしなやかに握り止められる。

「…あ…っ…」

…温かな、大きな手だった。

「帰らないでください。
どうぞご心配なく。
…私も結婚するつもりはありませんから」

「…千晴様…?」

「貴女と同じように、私にもずっと愛しているひとがいるのです…」

…結婚は、できませんけれどね。

そう言って、微かに切なげな色をその魅惑的な瞳に浮かべたのだ。
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