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それが運命の恋ならば
第7章 その薔薇の名前は
…退院見舞いに本家の当主、高遠泰彦を訪ねたとき、彼はさり気なく凪子との見合いの話を持ちかけた。
…その日、凪子は外出をして屋敷にはいなかった。
恐らくは泰彦が敢えてそうしたのだろう。

『…千晴もそろそろ、紫織さんを忘れて身を固めても良い時期なのではないか?
初恋の君に操を立てるのは、美しい話ではあるけれどね…』
すっかり健康を取り戻した泰彦は、血色の良い端正な貌に悪戯めいた笑みを浮かべ、目配せしてみせた。

『…泰彦叔父様には敵いませんね…』
千晴は、肩を竦め苦笑いをする。
小さな頃から我が子のように可愛がってもらっていた泰彦には、千晴の心の内は、どうやらお見通しのようだった。

『凪子は大層苦労して育ってきた娘でね…。
私が探し当てるのが遅かったせいで、彼女には辛い思いをさせてしまった…。
結婚のこともそうだ。
…私のかつての恋のせいで、凪子にまで累が及んでしまった…』
泰彦は苦渋の色を滲ませ、ため息をついた。

凪子の夫は、泰彦が愛した人妻の息子だったのだ。
彼は自分の母を不幸にした泰彦を憎んでいた。
泰彦に復讐するために、彼は凪子を妻に迎えたのだ。
…そして、すべての誤解が解けた途端に凪子と離婚し、泰彦の元に返した…。
…それが泰彦が話したあらましだ。

『…凪子はまだ李人くんを思っている…。
それが不憫でね…。
千晴なら凪子を幸せにできるのではないかと思ったのだよ…』

…それに…
泰彦は一族の長らしい引き締まった冷静な表情で告げた。

『私の血を引く娘と、次期後継者であるお前が一緒になってくれたら、高遠一族は磐石だ。
一族繁栄のために、これ以上の理想的な縁組はないだろう。
ぜひ、考えてみてくれ』

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