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それが運命の恋ならば
第7章 その薔薇の名前は
千晴は泰彦の合理的な考え方が嫌いではなかった。
確かに、両者にとってこれ以上の理想的な結婚はないだろう。

凪子は屋敷で働いていた女中との間にできた娘だと言う。
非常にエキセントリックな性分の奥方が赤ん坊だった凪子を母親から引き離し、京都の尼寺に幽閉するように託したという…さながら古めかしいメロドラマの筋書きような経歴の娘だった。

『…いくら泰彦様のお嬢様でも、出戻りではねえ…』
『けれどご本人は、大層お美しい方のようですわよ。
これまでご本家様には後継ぎがいらっしゃらなかったから、後継者は千晴様と決まっていたけれど、どうなるのかしら』
うるさ方の親族は噂に持ちきりであった。

千晴は本家の後継者になることに全く興味も意欲もなかった。
分家とはいえ、商才のある祖父や父親が築いてくれた財産や家屋敷は豊かだったし、自由気ままな今の生活が気に入っていた。

…本家を継ぐことになったら、どれだけ制約のある窮屈な生活を強いられるのかと思うと気が重いだけだった。

泰彦から凪子との内密の見合い話を提案されたとき、後日、理由をつけて断ろうと思っていたのだ。

…けれど…

それは、凪子の姿を見た瞬間、呆気なく消え失せてしまったのだ。


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