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それが運命の恋ならば
第8章 その薔薇の名前は 〜千晴の告白〜
「…温室にご案内させていただけませんか?
紫織さんにお見せしたい薔薇があります」
そう言って紫織を誘ったのは千晴にしては思い切った行為だった。
初対面の、しかも年上の女性に声を掛けるなんて、いつもの千晴だったら考えも付かぬ行為だった。
14歳の少年には面映いことだ。
千晴は幼い頃からたくさんの美しい女性たちに囲まれて育ったから他の同年代の少年よりはまだ落ち着いて会話できるけれども…。

政彦は家政婦の七重とともにチャペルに行っていた。
当日来る司祭との挙式の相談だ。
そのほかにも挙式後のガーデンパーティーの飲み物や食事、接待についてなど、打ち合わせることは山ほどあるのだ。

だから、紫織を誘ったのだ。
どうしてもこの母にそっくりな美しいひとと二人きりになりたくて。

「ぜひ、拝見したいわ」
紫織がすんなりと受け入れてくれたのは幸いだった。

「お庭に温室もあるのですか?
素晴らしいですわね」
柔かに微笑みながら、千晴にしなやかに歩み寄る。
ふわりと甘いような苦いような花蜜の薫りが、彼女からは漂った。
…何の薫りかな…。
どきどきする。

「…どうぞ、こちらです」
うっとりと夢心地のまま、温室へ続く小道へと紫織を誘った。


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