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それが運命の恋ならば
第8章 その薔薇の名前は 〜千晴の告白〜
「…まあ…なんて美しい…」
紫織は脚を止め、ため息を吐いた。

千晴も歩みを止め、そっと紫織を振り返る。

…本当に、母様に似ている…。

…そして…
千晴は熱の籠った眼差しで紫織を見つめる。

…なんて…なんて綺麗なひとなんだろう…。
千晴の眼は紫織に釘付けになる。

…白いシフォンのふんわりとした袖のロングワンピースを身に纏い、長く艶やかな黒髪を緩く結い上げているさまは、さながらヴィクトリア朝の貴婦人のようだ。

ほっそりとした少女のような細い腰…。
…しかしその透き通るように白い胸元は、成熟した女性らしい美しい稜線を描いている。

紫織の大きな瞳と眼が合う。
無遠慮に女性の身体を見つめていた自分が恥ずかしくなり、慌てて眼を逸らす。

紫織は咎めることなくふっと微笑んだ。

「本当に綺麗な薔薇園ですね。
…この薫り…天然の香水だわ…」

無邪気に深呼吸する紫織に、告げる。

「…亡くなった母の薔薇です…」

紫織がゆっくりと千晴を振り返る。
その美しい瞳が、見開かれる。
「…お母様の…?」

子どものように頷き、思い切って告白する。

「…貴女は、母にそっくりです…」

…母様…!

不意に胸が一杯になり、言葉が詰まった。
みるみるうちに、紫織の姿が柔らかく暈ける。

慌てて瞬きをする。
頰に温かな液体が、滴り落ちる。

…なんだ…これ…。

拭ってみて、ぼんやりと驚く。

…千晴は、泣いていたのだ…。

「…可笑しいな…。
母様のお葬式でも泣かなかったのに…」

泣き笑いをしながらしゃくり上げる千晴に、紫織がゆっくりと歩み寄る。

…その白く美しい指先が、そっと慰めを与えるように千晴の頰を撫でた。

「…お泣きになってよろしいのよ…。
だって千晴様はまだ14歳…子どもだわ…」

「駄目ですよ、そんな…。
…もう14歳だし…男だし…」
いやいやをするように首を振る千晴に、紫織はほっそりとした白い腕を差し伸べる。

そうして、しなやかな優しい動作で、そのまま千晴を抱きしめたのだった。





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