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それが運命の恋ならば
第8章 その薔薇の名前は 〜千晴の告白〜
…甘く、微かに苦い花蜜の薫りに包まれる…。

「…お泣きなさいな…。
誰も見ていないわ。
貴方と私…二人きりだわ…」
紫織の美しい声は、まるで懐かしい子守唄のようだ。

「…紫織さん…」
「…お泣きなさい…。
男の子だって、哀しいときには泣いて良いのよ」
紫織が優しく微笑み、千晴を抱きしめた。
…まるで、母のように…。

千晴は紫織の白く柔らかな胸に、そっと貌を埋めた。
…遠い遠い昔、かつて母の胸に抱かれた記憶が甦る。

「…母様…!」
…会いたかった…ずっと、ずっと、会いたかった…!

五年前、不意に淡雪が消えてなくなるようにこの世を去ってしまった最愛の母…。

…恋しかった…ずっと、ずっと、恋しかったのだ…。

千晴は夢のように甘く薫る花蜜の薫りに抱かれながら、幼な子に還って泣き続けたのだった。


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