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それが運命の恋ならば
第8章 その薔薇の名前は 〜千晴の告白〜
紫織は、政彦の妻の役目を完璧に果たしながら、アロマテラピストとして自立した仕事を始め、教室も開いた。

美貌の紫織の元には、彼女目当ての男性の生徒が多数集まってきたらしい。
お茶会や夜会では、一族の男たちが紫織と親しくなろうと群れを成した。
大人しい政彦は、何も言えないようだった。

自分の夫や婚約者、または恋人が紫織に夢中になるのだから当然、女性たちからの評判は悪かった。
紫織は常に嫉妬や憎悪の視線を向けられていた。
けれど紫織はそれらを毛筋ほどにも気にしていなかった。
いつも艶やかな眼差しに、謎めいた微笑みを浮かべているだけだ。

千晴とは年に一度の新年会か、たまさか出席が許されたお茶会やパーティーでしか貌を合わすことはなかった。
なにしろ千晴はまだ学生だ。
高遠家の規律は厳しく、未成年は大人のパーティーや集まりに出席することは許されていなかった。

それは、千晴が本家筋に一番近い次期後継者の座にあることも関係していた。
本家の当主、高遠泰彦には子どもがいなかった。
このままでゆくと、高遠本家の後継ぎは一番血縁の近い千晴となるのだ。
その為、年配の親戚たちは千晴には特別な教育をするように泰彦に助言をしていたのだ。

…特に…

『千晴に無闇に一族の婦女子たちを近づけないように。
のちのち、御台所になる娘は厳選して選ばなくてはならない』
…と。

だから、妙に色恋沙汰の噂が絶えない色香を湛えた人妻の紫織など、論外だった。
決して千晴に近づけてはならぬと、大叔母や老練な家政婦たちが躍起になって阻んでいたのだ。

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