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それが運命の恋ならば
第1章 出逢い
「…あの…。
もうひとつだけ、聞いてもいいですか?」
「どうぞ。何でも聞いてください」

「…李人様のご両親様は…お亡くなりになったと伺いましたが…」

ふと、その瞳に微かに翳りが滲んだ。
それは、ぞくりとするほどに冷ややかな色合いを帯びていた。

…けれど李人は直ぐに穏やかな笑みを浮かべた。
「ええ。桃馬が生まれて直ぐに。
…不運な交通事故に巻き込まれて、両親とも亡くなりました」

「…そうでしたか…。
すみません…。
こんなことを伺って…」
申し訳なさそうに詫びる凪子に、李人は優しく首を振った。
「いいんですよ。
もう十八年も経ちますし…。
私は中学生だったから両親の記憶や思い出はたくさんあります。
けれど桃馬には何もない。
…不憫でね、それで周りもつい、甘やかしてしまったのかもしれない」
しみじみ語る李人は、弟想いの兄に見えた。
凪子の心はじわりと温かくなる。

「…凪子さんは…」
遠慮勝ちに、李人が尋ねた。

「…ご両親のことは、覚えておられないのですよね?」
凪子が孤児なことは李人は承知しているのだ。

「…はい。
私は…お寺のお庭の桜の木の下に捨てられていたそうです。
ですから何も…」
「…そうですか…」
李人が、何か考え込むような表情をした。

「おくるみの中に私の名前と生まれた日が書かれた紙が残されていて…。
…分かっているのはそれだけです。
どんなひとが母だったのか…父はいたのか…何も分かりません」

李人の横貌が、どこか険しい表情になっていた。
凪子は慌てて、詫びた。

「…すみません…。
なんだか、陰気な話になってしまって…」

李人が微かに苦しげに眉を寄せ、力強く凪子を抱き寄せた。
「なぜ貴女が謝るのですか?
凪子さんは何も悪くない。
…悪いのは…」

…言いかけて、直ぐに首を振り…
「…悲しいことを思い出させてしまいましたね。
…さあ、もうお寝みなさい。
明日は私たちの結婚式なのですから…」

そう言って、優しい口づけと共にその話を打ち切った。

凪子は安堵した。
…李人様は私の出自を気になさらないのだわ…。
本当に…お優しい方…。

「…李人様…」

…好きです…。

独り言のような愛の告白は、眠りに落ちる間際で、李人に届いたかはわからない…。

…けれど…

「…私もですよ…」

…優しい声が、聞こえたような気がしたのだ…。



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