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それが運命の恋ならば
第9章 その薔薇の名前は 〜ローズガーデンの恋人たち〜
…李人は凪子を見るとはっと端正な貌を強ばらせた。
少し窶れたのか、頰の辺りが削げていた。
それが尚のこと、男のやや陰のある美貌を際立たせていた。

「…凪子…さん…」
李人の形の良い唇から、掠れた声が漏れた。
見つめ合い立ち竦む二人を見て、直ぐに千晴が事情を察知する。
「…一之瀬…?」
李人に近づき、小さな声で囁く。
「…もしや、あの一之瀬さんですか?」
李人は頷き、すぐ様深々と頭を下げた。
「大変失礼いたしました。
やはりいきなり伺ったのは無礼すぎました。
私はこれで失礼いたします」

驚く友人たちを尻目に背を向ける李人に、凪子は思わず声をかけていた。

「お待ちください!李人様!」
李人がゆっくりと振り返る。
どこか怯えた、子どものような瞳だ。

「…お帰りに…ならないでください。
私…李人様にお話がございます」

「…凪子…」
懐かしい、声だった。
胸が締め付けられた。

「…李人様…。
私…」
熱い想いが溢れすぎて、言葉にならない。

千晴が優しく凪子の震える華奢な肩を抱き、さり気なく囁いた。

「…凪子さん。
小客間をお使いなさい。
人払いをしておきます」
琥珀色の美しい瞳が、温かく微笑んでいた。




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