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それが運命の恋ならば
第9章 その薔薇の名前は 〜ローズガーデンの恋人たち〜
李人の身体がびくりと震え…けれどすぐ様強い力で凪子は抱き竦められた。
…懐かしい李人の白檀の薫りに包まれる。

「…凪子…!」
絞り出すような掠れた李人の声に、凪子は縋るように続ける。

「…メイドでも、下働きでも、なんでも構いません…。
お屋敷に置いて下さい…!
李人様のお側にいられるなら…なんでもいたします…!」

懇願する凪子の華奢な身体を、李人は強く強く抱きしめる。
「…貴女は…貴女は何も分かっていない…!
私が貴女をどれだけ愛していたのかを…!
…いや、今も尚、愛しているのかを…!」
「…李人様…」

李人の長く美しい指が、凪子の艶やかな黒髪を愛おしむように撫でる。
鼓膜に、懐かしい男の声が熱情の色に染み入る。
「…あの薄暗い陰鬱な尼寺で、貴女はまるで奇跡のように美しかった…!
…私は、母の仇の娘に会ったらありったけの憎しみをぶつけようと思っていました…。
…けれど貴女は…私の醜くどろどろとした憎しみのマグマをあっという間に消え去ってしまうほどに美しく清らかで嫋やかで…。
私は本来の目的も忘れ果て、ひたすら貴女に見惚れていました。
何もかも忘れ果てて…。
…貴女に…一目惚れしたのですよ…」

…そっと仰ぎ見るその先に、美しい漆黒の瞳がしっとりと濡れながら微笑んでいた…。


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