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それが運命の恋ならば
第1章 出逢い
挙式は陽が落ちてから、一之瀬家が氏子を務める神社の神主が呼ばれ、母屋の大広間で厳かに行われた。

仄かに燈る雪洞の灯りのみが、広間を静かに照らす。
朗々たる神主の声で祝詞が詠まれる中、凪子は今、自分の身に起こっていることを夢のように思う。

一昨日までは京都の山深い尼寺でひっそりと暮らしていた自分が…。
傍らにいる成熟した美しく優しく頼もしい男の妻になろうとしているのだ。
俄には信じられなかった。

…私は結婚したのだわ…。

最初は諦めにも似た気持ちで、男の元にやってきた。
自分を育ててくれた庵主と寺のために。
恩返しをするために。
だから、そんな結婚では愛せないかもしれないと、寂しい覚悟で嫁いだのだ。

…けれど…

その夫となるひとに、たった一日で、恋に落ちてしまった。

一之瀬李人は端麗な美貌もさることながら、その優しく穏やかな人柄や理知的で頼り甲斐のある大人の魅力で凪子の心をあっと言う間に掴んでしまったのだ。

祝詞ののち、夫婦の固めの杯の儀式となる。
白い着物に朱の袴姿の巫女が李人に続き、凪子に恭しく御神酒を注ぐ。

三三九度を終え、李人をそっと見上げる。

男はにこやかな笑顔で凪子を見つめていた。
家紋入りの黒い着物に袴姿の李人は夢のように美しい。

雪洞の灯りが、男を近寄り難いくらいに幻想的に浮かび上がらせる。
…微かに漂う李人の伽羅の薫り…。
その姿を見るだけで痺れるような感覚に襲われる。

…この美しい方の…妻になったのだ。

…幸せだわ…。
凪子は生まれて初めて幸福というものを実感した。
涙ぐみたくなるような甘く満たされた感情にじんわりと包まれる。

結婚式は滞りなく行われた。
…雅楽の演奏が静かに終わる。

凪子は李人にそっと微笑むと、トキに手を取られ、広間を退出した。




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