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それが運命の恋ならば
第11章 ふたつの月
「…お父様。
どうか、千晴様と紫織様をお責めにならないでください。
お二人は心から愛しあっていらっしゃるのです。
けれど、このままでは決して結ばれることはできません」
…このまま、ここにいては二人はしがらみや立場に雁字搦めに締め付けられ身動きがとれないままだ。

『何もかも捨てて、紫織さんと二人で人生をやり直したい。
紫織さんさえいれば、僕にはほかに何もいらない。
それがようやく分かった』
屋敷を出る間際、千晴は凪子にそう告白した。
傍に寄り添う美しくも愛おしい恋人を抱き寄せながら…。


「…お二人を、どうか自由にして差し上げてください」
嘆願する凪子を振り向き、泰彦は手を差し伸べた。
「…おいで、凪子…」
凪子の白い手を引き寄せ、優しく背中を抱いた。
「…確かに千晴には幼い頃からずっとこの高遠家を継承すべき者として、あまりに重いものを背負わせすぎていたのかもしれないな…。
…私が不甲斐ないばかりに…」
「…お父様…」
気遣わしげな表情の凪子に、泰彦は温かく微笑む。

「私は少し千晴が羨ましかったのだよ…。
私には何もかも捨てて、恋に走ることはできなかった」

…泰彦の愛惜に満ちた眼差しは、かつて自分の掌から溢れ落ちた唯一の恋の面影を追憶しているようであった。

「…あの時、雪乃の手を取り、千晴のように行動を起こしていたら…少なくとも雪乃を喪わずに済んだのに…と」

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