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それが運命の恋ならば
第11章 ふたつの月
その青年の緊張した…けれど熱く深い愛に満ちた表情を初めて見たと泰彦は思った。

「…いきなり伺ったご無礼をどうかお許しください」
李人は毅然と、しかし丁重に頭を下げた。

「…李人くん。頭を上げてください」
泰彦の言葉に、ゆっくりと貌を上げる。

…泰彦が愛した唯一のひと、雪乃の面影を宿す端麗な貌に暫し見惚れる。

…雪乃…。
君は、死んではいなかったのだね…。


「…高遠さん。
今までの数々の無礼をお許しください。
今更と思われるかもしれませんが、私は…」
苦しげな表情の李人を思い遣るように頷く。

「君の言いたいことはよく分かります。
…凪子を、愛しているのですね?」

泰彦の言葉に、麗俐な美しい瞳が見開かれる。

「はい。愛しています。
…本当は、最初から…。
凪子さんにお会いした最初からずっと心を奪われ、愛していました。
それなのに、私は貴方への歪んだ復讐心を抱き続け、凪子さんを苦しめ続けた…。
…こんな私に、本当はまた愛を告げる資格はないのですが…」

泰彦は李人の手を取った。
ひんやりとしたしなやかな手は、雪乃によく似ていた。

「…人は時に過ちを犯すものです。
大切なのは、その過ちに気づいた時に何をするか…。
…何を大切にすべきなのか…です」
「…高遠さん…」

雪乃の面影の灯る瞳を愛おしく見つめ、微笑む。

「…私は間に合わなかった…。
けれど、君は間に合った…。
…本当に、良かった…」

李人は俯き、静かに泣いた。
「…ありがとうございます…」

泰彦はその震える肩を、優しく抱き締める。

…時を経た雪乃との愛の成就を、微かに…確かに感じながら…。



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