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第11章 ふたつの月

「…りひと…さまの…が…欲しかった…」
蚊の鳴くような小さな声…。

李人は薄く笑った。
「…私の…は…どう？」

ねっとりと抽送が再開される。
「…い…いい…」
「…どういいの？」
「…ああ…ん…っ…おお…きい…すご…く…」

ふっと吐息まじりの笑みで、耳朶を強く噛まれる。
「ああっ…！」
耳朶の痛みと、花芯で膨れ上がった男の牡の熱さに、思わず呻いてしまう。

「…大きいだけ…？」
…こんな卑猥な質問を繰り返すのは李人らしくない。
普段の李人は女性には人一倍の礼儀を重んじる。
下世話な発言などおくびにも出さないし、許さない。
淑女に対しても。メイドに対しても。

けれど今、その瞳は美しい愉楽の色を濃く濡らし、凪子を見つめていた。

「…大きくて、どう悦いの？」
ゆっくりと、しかし、力強い抽送が始まる。

「…ああ…っ…」
さながら、押し潰される白い花のように、凪子は成す術もない。

「…どう悦いの？
…凪子…」

次第に激しくなる突きに、凪子は白くか細い首をのけ反らせる。

「…ああ…かた…くて…あつ…い…の…」
甘すぎる蜜のような声…。
明らかに快楽を訴え、せがむ声色だ。
「…あつ…い…ああ…っ…」
…おかしく…なりそう…。
啜り哭く凪子を、李人は強く抱き竦めると、優しく囁いた。

「…おかしくなりなさい…」
息の根を止められそうな激しい口づけ…。
お互いの結合部からは、淫らな水音が絶え間なく響く。
…極上の悦楽の甘き蜜…。
それはもはや液体というより、白く泡立ち、泡沫のようにさえ見える。


「…ああ…っ…い…いい…っ…すご…く…」
　
…きもち…いい…。
恍惚となりながら、涙に濡れた長い睫毛を瞬き、無意識に枕元を探す。

…禅さ…ん…。

禅の夜の深い海の色の瞳を、探す。

…雄々しい森の番人のような逞しい体躯も…。

悦楽の極みのきざはしを昇る凪子に、一瞬、その幻覚が見える。

「…ぜ…ん…さ…」

微かなうわ言の欠片をそっと封印したのは、李人の口づけだった。

…けれど、快楽の甘く暗い沼に堕ちた凪子には、もう何も分からなかった。