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それが運命の恋ならば
第11章 ふたつの月
「…内房総ですか…」
ここはほぼ外房総だ。
凪子は内房総は行ったことがない。
…というより、京都とここと…高遠家の東京以外行ったことはないのだけれど。

「そう。ここより小さな鄙びた海の街なんだけれど、とても美しいところなんだ。
…母の所縁の場所でね。
小さな時によく遊びに行った…。
想い出の場所なんだ…」
…だから君をどうしても連れて行きたくて…。
李人が片手で凪子の手を優しく握りしめた。

「近場でごめんね。
…まとまった休みがなかなか取れなくてね。
来週は仕事で上海に飛ばなくてはならないから、ほんの二、三日の旅行になるけれど…。
本当の新婚旅行は海外に行こう。
…どこがいいかな。やはりヨーロッパかな。
イタリア、スペイン、ギリシア…。
ああ、でも南フランスも捨てがたいな。
ニースに滞在してのんびりするのもいい。
…しかし美しい景色を堪能するにはやはりスイスかな。
ジュネーブ、ローザンヌ、レマン湖、イゼルトヴァルト、冬ならサンモリッツでスキーができる…」

凪子はおずおずと口唇を開く。
「あの…私…」
「何?どこか行きたいところがある?」
優しい問いに首を振る。
「…充分です」
「…え?」
「こうして、李人様と一緒に過ごせて…李人様の想い出の場所に連れて行っていただけて…それで充分です。
…これが新婚旅行で構いません。
私はとても幸せです」
精一杯の想いを込めて伝える。

李人の切長の美しい瞳が細められる。
「…凪子…」

素早く…けれど愛情に満ちた仕種で口唇が奪われ、
「脇見運転ばかりになってしまいそうだよ」
少し照れたように囁かれたのだ。

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