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それが運命の恋ならば
第11章 ふたつの月
「…人生…」
思わず凪子が呟いた。

澄佳は凪子を見つめ、和やかな…まるで姉のような微笑みを浮かべて頷いた。

「ええ…。
…私ね、色々なことがあって…そのたびにこの店に救われてきたんです。
祖母は両親を亡くした私を育てながらこの店を守ってくれて…そして、私に託してくれて…。
だからこの店は祖母からの贈り物…。
祖母の愛を…それからこの街のひとたちの交流の場である店を、私は大切に守ってゆきたいんです」
そう心に刻むように答えると、類を抱き上げた。
類が歓声を上げる。

「…この子には少し寂しい思いをさせてしまうかもしれないけれど…」
呟くと、類が屈託なく笑った。

「大丈夫だよ、お母ちゃま。
僕、もう一年生だもん。
本郷のおうちにはお父ちゃまがいるし、時々、由貴子さんも来てくれるし、ぜんぜん寂しくないよ」
「由貴子さん…?」
澄佳がふわりと微笑んだ。
「主人の母なんです。
凄くお綺麗でお若い方だから、おばあちゃまとは呼んでいなくて…」

澄佳は愛おしげに類の清らかな額に額を付けた。
「そうよね。類は幸せよね。
類を愛してくれるたくさんのひとに囲まれて…」

その愛の風景に凪子の心も温かくなる。
李人と思わず眼を合わせ、そっと笑みを送り合う。


…と、カウベルが軽やかに鳴った。

「…澄佳さあん。類くんこっち来てる?
あのコったら車からダッシュしちゃって…。
…涼ちゃん、お兄ちゃま、大丈夫よ。
これくらい瑠璃子が持てるわよ」
「駄目だ。お前、もう臨月なんだぞ。ちっとは妊婦らしくしろ。
ほら貸せ、荷物。転ぶなよ、そこ段差がある」
「涼太くんの言う通りだよ。
瑠璃子はもう少しおとなしくしたほうがいいな。
…澄佳さんはもっと物静かに過ごしていたよ」
「お生憎様。
私は澄佳さんみたいにお淑やかじゃないの。
…あ〜あ。早く産まれないかなあ。
あれダメこれダメ…って、ホント息が詰まるわ」
「瑠璃子!」

…親しげで気の置けない話し声とともに、男女が賑やかに店に入ってきたのだった。


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