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それが運命の恋ならば
第11章 ふたつの月
「澄佳さんの店に行ってきたよ。
涼太くんにも会った。
…彼らとはあの海でよく泳いだね」
李人が開け放たれた窓の外に視線を遣る。
内房の静かな海は、波の音すらしない。
微かな潮の香りが、その存在を静かに漂わすだけだ。
「…そうですね。
お元気でしたか?みなさん」
「ああ、皆んな結婚して、幸せそうだった。
…そう言えば、禅の初恋は澄佳さんだったね」
テーブルに置こうとした凪子のグラスが、かちりと音を立てた。
「…澄佳さんはあの頃から飛び切りの美少女だった。
泳ぎも男の子より上手で、お祖母様のお店を楽しそうにお手伝いする健気で優しい女の子だった。
禅は彼女に恋をしたんだ」
歌うように語る李人を禅は穏やかに制した。
「…子どもの頃の話ですよ」
李人が愉しげに笑う。
「澄佳さんも禅には好感を持っていた。
二人で岩場で蟹を取ったり、花火に誘われたりしていたね」
「それは李人様も…」
遠慮勝ちに口を挟む禅に、李人は目くばせをした。
「…そう。
僕がちょっと澄佳さんを誉めたんだ。
『あの子、可愛いね。僕の好きなタイプだ』
…そうしたら…。
禅は翌日、家に帰った。
まるで、澄佳さんを僕に譲るとばかりに…」
ヘネシーの杯を呷り、小さく笑った。
それは決して嫌味な笑いではなかった。
優しみすら感じさせるものだった。
「…旦那様」
禅がため息混じりに呟いた。
「お前はいつもそうだ。
僕が関心を持った途端、黙って身を引く。
いつもそうだ…」
その声は、慈愛と言っても良いほどの温かさを持っていた。
…そうして…
僕たちが好きになるひとは、いつも同じだったんだ…。
李人の美しい声は微かな潮風に流れ、柔らかく凪子の鼓膜を震わせた。
涼太くんにも会った。
…彼らとはあの海でよく泳いだね」
李人が開け放たれた窓の外に視線を遣る。
内房の静かな海は、波の音すらしない。
微かな潮の香りが、その存在を静かに漂わすだけだ。
「…そうですね。
お元気でしたか?みなさん」
「ああ、皆んな結婚して、幸せそうだった。
…そう言えば、禅の初恋は澄佳さんだったね」
テーブルに置こうとした凪子のグラスが、かちりと音を立てた。
「…澄佳さんはあの頃から飛び切りの美少女だった。
泳ぎも男の子より上手で、お祖母様のお店を楽しそうにお手伝いする健気で優しい女の子だった。
禅は彼女に恋をしたんだ」
歌うように語る李人を禅は穏やかに制した。
「…子どもの頃の話ですよ」
李人が愉しげに笑う。
「澄佳さんも禅には好感を持っていた。
二人で岩場で蟹を取ったり、花火に誘われたりしていたね」
「それは李人様も…」
遠慮勝ちに口を挟む禅に、李人は目くばせをした。
「…そう。
僕がちょっと澄佳さんを誉めたんだ。
『あの子、可愛いね。僕の好きなタイプだ』
…そうしたら…。
禅は翌日、家に帰った。
まるで、澄佳さんを僕に譲るとばかりに…」
ヘネシーの杯を呷り、小さく笑った。
それは決して嫌味な笑いではなかった。
優しみすら感じさせるものだった。
「…旦那様」
禅がため息混じりに呟いた。
「お前はいつもそうだ。
僕が関心を持った途端、黙って身を引く。
いつもそうだ…」
その声は、慈愛と言っても良いほどの温かさを持っていた。
…そうして…
僕たちが好きになるひとは、いつも同じだったんだ…。
李人の美しい声は微かな潮風に流れ、柔らかく凪子の鼓膜を震わせた。