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それが運命の恋ならば
第11章 ふたつの月
禅はブロンズ色の雄々しい貌に毅然とした表情を浮かべ、凪子の前に進みでた。

「…旦那様。本当に、私が奥様を抱いてよろしいのですか…?」
「ああ、そうだ。
…愛おしい凪子をお前と共有できる…。
なんて幸せなことだろう。
凪子もそうだ。
凪子もまたお前を愛している。
…誰が不幸になるというのだ?
皆が幸せになる関係ではないか」
澄んだ美しい李人の眼差しを静かに受け止め、禅は漸く初めて穏やかに微笑んだ。

「…全く…旦那様は…。
昔から少しもお変わりにならない…。
お美しい見かけによらず頑固でいらっしゃる…」
…けれど…
と、懐かしい近しい幼馴染みの眼差しになる。

「…一歳年下の李人坊ちゃんは、小さな時はいつも俺のあとを付いてきて、俺の傍から離れなかった。
ぜん、ぜん、…てね。
そうして大きくなっても俺を大切にしてくれた…。
俺が好きなものすべてを大切にしてくれた。
…俺の恋人はだから、いつも坊ちゃんに譲った。
恋人が大切にしてもらえると、分かっていたからだ。
事実、大切にしてくれた。
皆んな、坊ちゃんに感謝しながら去っていったよ…。
…けれど坊ちゃんは、いつも孤独を友だちにしていた。
どれだけ人気者で、たくさんの友人の中にいても…。
…だから俺は、李人坊ちゃんの願いはすべて叶えたいと思って生きてきたんだ」

李人の涼やかな端麗な瞳が、しっとりと潤む。
「…禅…。
お前だけが、私の孤独を理解してくれた…。
お前だけが、私の愛を理解してくれた…。
…凪子に会うまでは…」

禅は慈愛の眼差しで、李人に頷いた。
…そして、凪子の緊張のあまり冷たく悴む白い手を押し戴くように握りしめ、口付けをした。
その唇は、火のように熱かった。
「…奥様。
私は、貴女を心から愛しています。
旦那様の奥様だからなのか、凪子様だからなのか…それは私にはもはや分かりません。
けれど、貴女を愛していることだけは真実なのです。
…だから、貴女を私のものにする…。
本当の妻のように抱きます。
貴女を、身篭らせるかもしれない…。
それは、酷く背徳な行為かもしれない…」

…それでも
と、凪子の瞳をひたりと見つめる。

「貴女は、私を受け入れてくださいますか?」




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