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それが運命の恋ならば
第2章 初夜
「…凌辱…?」
耳を疑った。
尼寺で育った凪子には余りに刺激が強すぎる言葉と内容だった。
強張る凪子の頰を撫で回す李人の手は、飽くまで優しい。
「…ええ。
母は一之瀬家に嫁ぎ、家業の旅館の若女将として活躍していました。
息子の私が言うのも何ですが…とても美しいひとでした。
高遠氏はうちの旅館を常宿とする顧客でした。
…あの高遠家のご当主様です。接遇は常に大変なものでした。
若女将の母は特に丁重に接待をしていたようです。
やがて母に目を付けた彼は、母を深夜部屋に呼び出しました。
そうして密かに酔わせ、無理矢理身体を奪ったのです。
…彼が卑怯なのは一度に終わらずに、そのことを盾に何度も母に迫り、関係を結ばせた。
…その現場を…私の父が見てしまったのです」
…あまりに衝撃的で痛ましい話に息苦しさを覚え、凪子は眼を伏せようとした。
それを許さず、男は凪子の貌を強引に自分の方に向けさせる。
「…そうして、私が生まれた」
…まさか…
と、凪子は愕然としながら、李人を見上げた。
ふっと、乾いた笑みを李人は浮かべた。
「…いいえ、私は正真正銘父の子どもですよ。
それはDNA検査でも証明された。
…けれど、私はひとつも両親に似ていなくてね。
最悪なことに、父は母が高遠氏に手籠めにされたことを信じなかった。
母と高遠氏が内通し、それが露見したので母が偽りの告白をしたと、疑ったのです。
…というのも、それまで高遠氏が母を気に入り、折々に親しく話をしている場面を目撃していて…密かに嫉妬し、あり得ない疑念を抱いていたのです」
「…そんな…!」
酷すぎると凪子は思った。
夫に、貞操を疑われるなど、何より辛いことではないか。
ましてや、相手に凌辱されたというのに…。
李人の氷の仮面のような美貌は無表情のままだ。
「…父は母に妄執していました…。
美しい妻が、心配でならなかった。
しかも父は身体が弱く、子どもを作りにくい身体だった…。
そのため、母を疑ったのです。
歪んだ愛と執着と憎しみ…。
それらをすべて母にぶつけた。
愚かな父親です。
…けれど、その原因を作ったのは…」
冴え冴えとした怜悧な眼差しが、冷ややかに凪子を見下ろす。
「…貴女の父、高遠泰彦だ」
耳を疑った。
尼寺で育った凪子には余りに刺激が強すぎる言葉と内容だった。
強張る凪子の頰を撫で回す李人の手は、飽くまで優しい。
「…ええ。
母は一之瀬家に嫁ぎ、家業の旅館の若女将として活躍していました。
息子の私が言うのも何ですが…とても美しいひとでした。
高遠氏はうちの旅館を常宿とする顧客でした。
…あの高遠家のご当主様です。接遇は常に大変なものでした。
若女将の母は特に丁重に接待をしていたようです。
やがて母に目を付けた彼は、母を深夜部屋に呼び出しました。
そうして密かに酔わせ、無理矢理身体を奪ったのです。
…彼が卑怯なのは一度に終わらずに、そのことを盾に何度も母に迫り、関係を結ばせた。
…その現場を…私の父が見てしまったのです」
…あまりに衝撃的で痛ましい話に息苦しさを覚え、凪子は眼を伏せようとした。
それを許さず、男は凪子の貌を強引に自分の方に向けさせる。
「…そうして、私が生まれた」
…まさか…
と、凪子は愕然としながら、李人を見上げた。
ふっと、乾いた笑みを李人は浮かべた。
「…いいえ、私は正真正銘父の子どもですよ。
それはDNA検査でも証明された。
…けれど、私はひとつも両親に似ていなくてね。
最悪なことに、父は母が高遠氏に手籠めにされたことを信じなかった。
母と高遠氏が内通し、それが露見したので母が偽りの告白をしたと、疑ったのです。
…というのも、それまで高遠氏が母を気に入り、折々に親しく話をしている場面を目撃していて…密かに嫉妬し、あり得ない疑念を抱いていたのです」
「…そんな…!」
酷すぎると凪子は思った。
夫に、貞操を疑われるなど、何より辛いことではないか。
ましてや、相手に凌辱されたというのに…。
李人の氷の仮面のような美貌は無表情のままだ。
「…父は母に妄執していました…。
美しい妻が、心配でならなかった。
しかも父は身体が弱く、子どもを作りにくい身体だった…。
そのため、母を疑ったのです。
歪んだ愛と執着と憎しみ…。
それらをすべて母にぶつけた。
愚かな父親です。
…けれど、その原因を作ったのは…」
冴え冴えとした怜悧な眼差しが、冷ややかに凪子を見下ろす。
「…貴女の父、高遠泰彦だ」