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それが運命の恋ならば
第12章 それが運命の恋ならば
そこに佇むのは、レイバンのサングラスにヴェルサーチの派手な縞のスーツにショッキングピンクのネクタイを締めたケンの姿だ。
短髪はしっかりとセットされ、口髭もイタリアの伊達男ばりに整えられている。
靴もサントーニのレザースニーカーだ。
一見、ひどく強面に見えるから、ケンの周りはそこだけ異質な雰囲気が漂っている。
けれど、口を開けば品の良いマダムのような語り口なのでそのギャップに大抵の人はぎょっとする。

…ケンは相変わらずだ。
いついかなる時も、ケンだ。
TPO関係なく常にブレない。
自分の美意識に根拠なき自信を持っている。
それはあまりに確固たる揺るぎないものなので、見る人は自然とケンに敬意めいたものを抱くのだ。

桃馬はささくれていた気持ちが少しだけ和らぎ、わざと膨れっ面でズカズカと近づいた。
「腹も立つさ。
俺はまだ一個も納得してねえから!」
…そうだ。
昨年の兄夫婦…李人と凪子の復縁からこっち、桃馬には納得できないことばかりなのだ。

ケンはサングラスを外しながら、大袈裟に眉を上げて見せる。
「ああん?何よ?ああ、アレ?
衝撃の一之瀬家の一婦多夫制の件?
ま・さ・に・逆ハーレムね!
ああん。凪子ちゃんってば!羨ましいったらも〜!」

「しっ!バカ!声がデカいってばよ!」
桃馬は慌てて周りを見渡した。
ケンはにやりと笑い、肩を竦めて見せた。

「大丈夫よお。
まさかこんなセレブなおうちで、そんなえろい結婚制度が罷り通っているなんて、誰も想像すらしないわよお」
…てかさ、
と、ケンは不思議そうに改めて桃馬に尋ねた。

「桃ちゃん、あんたよくそんな夫婦の秘密に気づいたわねえ。
…まさか…覗き?」
「しね〜よ!んな下品なこと!」
桃馬は憤然とした。
…そうして、再び子どものように口を尖らせたのだった。

「んなことしなくても、一目瞭然だったよ。
…あの三人の様子を見てたらさ…」

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