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それが運命の恋ならば
第1章 出逢い
幼い頃からずっと尼寺で育った凪子にとって、若い男性には滅多に遭遇するものではない。
鞍馬に近い京都の山奥…鄙びた小さな尼寺を訪ねてくる男は、檀家の老人たちと相場は決まっていたからだ。

李人…一之瀬李人はそんな凪子にとって、初めて見る若く美しい男性だった。

古びた茶室に入ってきた李人は、圧倒されるような研ぎ澄まされた美貌と犯し難い品位と嫌味にならない自信を纏っていた。
歳の頃は三十を過ぎた頃だろうか…。
若々しいが、未熟な若者特有の青さや軽々しさはなかった。
…身につけている濃灰色のスーツは、凪子が見たことがないほど高価で如何にも仕立ての良いものだった。
上背が高く、すらりとした長躯だが、茶室の躙口を入る際にはしなやかな所作を見せ、ぎこちなさは皆無だった。
茶の湯の心得は相当あるかのように見えた。

普段気難しい庵主でさえ、どこか浮き足立った…明らかに李人に魅せられている様子だった。

『…一之瀬様は茶の湯のお心得はおありですの?
えらい美しい所作をなさってはりますなあ』

それに対して、李人は薄く片頬だけで微笑んだ。

『全くの不調法ですよ。
ご無礼がありましたら、どうかご容赦ください』
…一礼し、頭を上げたその刹那、凪子と視線が合った。

李人はほんの一瞬だけ、酷く驚いたようにその涼しげな切長の瞳を見開いた。

しかし、次にはもう静謐な表情に戻り、微かに微笑ってみせたのだ。
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