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それが運命の恋ならば
第3章 愛と哀しみの夜明け
凪子は足音を忍ばせ、廊下を歩く。
中庭に面した縁側の硝子戸を音がしないようにそっと開ける。

…人の出入りの多い家だ。
どこで、トキに合うか分からない。
玄関からでは目立ってしまう。
とにかく、人がいないところから出なくては…。
それしか、頭にはなかった。

敷石の上に女物の紅い鼻緒の草履が揃えられていた。
凪子のためのものか、分からなかったがそんなことに構ってはいられない。
素早く鼻緒に白足袋の足先を通し、そのまま庭に降りた。

…早く…早く逃げなくては…。

震える脚で、一歩ずつしっとりと苔生した地面を踏み締める。

…早く…早くこの家を出ていかなくては…。

ここに居て、このままずっと、あの方の復讐の道具になるのは、耐えられない…。
愛されてもいないのに…いや、憎まれているのに、妻でいる訳にはいかない…。

…どこでも構わない…。
ここでなければ…。

譫言のように呟きながら、凪子は裏木戸を探しながら飛び石を伝って行った。
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