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それが運命の恋ならば
第3章 愛と哀しみの夜明け
「…あ、貴方は…!」
凪子は息を呑んだ。

…眼の前の織部灯籠の足元で片膝を付き、跪いている男…。
黒い庭師の制服に身を包んだ、がっしりとした逞しい体躯の…やや日本人離れしているような濃い目鼻立ちの男…。
庭師の禅であった。

「…奥様…。お出かけになられるのでしたら…」
立ち上がり、凪子に近づこうとする男に、反射的に声を上げる。

「こ、来ないで…!」
悲鳴のような凪子の言葉に、禅ははっとしたように足を止めた。
凪子の恐怖に引き攣った貌を見つめ、苦しげに俯いた。
そうして男は、再び地面に平伏すように猛然と身を屈めた。

「奥様。どうか…どうかお許し下さい…!」
絞り出すような男の苦しげな声が聞こえた。

…この男に…我が身のすべてと、恥ずかしくも浅ましい性交の一部始終を見られていたのかと思うと、消え入りたいような羞恥と屈辱感に襲われる。

「…何を…何を許すというのですか…」
凪子の白い頰に新たな涙が滴り落ちる。

「…貴方には…分からない…。
私が…どれだけ惨めで…辛かったか…。
…今でも…この場で…死んでしまいたいくらいです…」

禅の凛々しい眉が、苦渋に歪む。
唸るようにして、彼は頭を下げた。
「どうかお許しください…!
当然のことですが、私は一切他言をいたしません。
そして、これからは奥様を全身全霊でお守りいたします。
この命に替えましても…!」

「…そんな…そんなこと…」
…そんなことは、望みではない。
私は…私は…
苦しくて、混乱して、言葉にできない。

やがて、禅が鎮痛な面持ちで口を開いた。
「奥様…。
さぞ、李人様を恨んでおられるでしょうね。
私も、李人様のお心の全てを分かっているわけではありません。
…けれど、これだけは確信して申し上げられます。
李人様は、奥様を蔑ろにされるおつもりはありません。
むしろ…貴女様をとても…とても大切に思っておられます」

その言葉に凪子は思わず叫んだ。
「嘘…!
大切に思われているなら、昨夜のようなことをなさるはずがないわ…!
初夜の寝室に…他の男を呼び、行為を見せつけるなんて…。
わ、私は世間知らずで無知ですけれど…それがどれだけ異常なことかくらいは分かります…!
あ、貴方だって、そう思われるでしょう?」






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