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それが運命の恋ならば
第3章 愛と哀しみの夜明け
「…それは…」
言葉に詰まる禅に、凪子は弱々しく告げる。
「…私が、あの方の復讐の道具だからです…。
きっとあの方は高遠の娘なら…誰でも良かったのでしょう…。
だから、あんな酷いことができるのです…。
…愛していたら…あんな…卑劣で屈辱感なこと…できるわけないわ…。
夫婦の営みを、他人に見せるなんて…」
言葉にすると尚更惨めで、凪子は口唇を噛み締めた。

「…奥様…」

立ち竦む禅に背を向ける。
彼とこれ以上対峙するのも辛かった。
…なぜなら、彼は凪子のすべてを目の当たりにした人物だからだ。
この素肌も、性交するさまも、何もかも…。
思い出しただけで、全身に鳥肌が立つ。

「…奥様。
どちらに行かれるのですか?」
酷く心配そうな声に、凪子は振り返ることなく告げる。

「…少し、外の風に当たってきます」
何か言いたげな禅の気配に、凪子はゆっくり振り返り寂しく微笑った。

「ご心配なさらないで。
…いなくなったりいたしません。
…だって、私には帰る場所すらないのですから…」

禅が鎮痛な表情で息を呑んだ。

…この人にまで、同情されるなんて…。
惨めな感情が凪子を侵食する。
凪子は無言で、裏木戸から出て行った。

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