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それが運命の恋ならば
第3章 愛と哀しみの夜明け
裏木戸から表に回ると、眼の前には遮るもののない白い砂浜が広がっていた。
長閑な春の海が、一枚絵のようにどこまでも広がっている。

その景色に魅せられたかのように、石畳みでできた階段をゆっくりと降りた。

…太陽の温もりを含んだあたたかなしっとりとした春の潮風は、凪子を優しく押し包んだ。

「…ああ…」
凪子は思わず声を上げた。

きらきらと輝く穏やかな碧い海は、悠久の彼方まで繋がっているように見えた。

…白い砂浜に誘われるように、凪子は腰を下ろした。
砂浜は温かく、凪子の脚に触れた。

「…きれい…」
…こんな時でも、美しいものは美しいのだと、ぼんやりと思う。

近くの港からゆっくりと白い波の尾を引きながら、小さな漁船が沖に出る様子が眼に映る。
…そういえば…ここに来た時、たくさんの漁師さんを見かけたっけ…。
ここは漁村でもあるのだわ…。

暫く、美しい鄙びた海の風景に疲れた心を預け、やがて我に還る。

…これから、どうしよう…。
思わずため息が漏れる。

禅にああ言ったものの、このままあの家に帰るのは辛すぎた。
夜になり、またあのような恥辱に満ちた時間を過ごさなくてはならないのか…。

凪子は身震いしながら、我が身を抱きしめる。

…けれど…。

私の帰る場所など、どこにもないのだ。
尼寺にはもう帰れない。帰りたくはない。

…ふと、雄大の貌が浮かぶ。

優しい優しい幼馴染み…。
いつも私を守ってくれた…。

…雄ちゃん…。

雄大ならきっと、凪子を受け入れてくれるだろう。
むしろ、帰ってこいと勧めるに違いない。
…けれど、雄大はまだ学生だ。
しかも大店の一人息子で、将来もある。

…駄目よ。雄ちゃんに迷惑はかけられない。
途方に暮れながら、再び海をぼんやりと眺める。

…あの海に入ったら…どうなるのだろう…。
もう、何も…考えないで済むのかしら…。

…少なくとも、あの苦しい夜は過ごさなくて済むのだ…。

頭に浮かんだ魔の誘惑にも似た考えに、凪子はゆらりと立ち上がり…ふらふらと脚を進めた。

波の音が近くなる。

…波打ち際まで、あと少しだ…。


…その時…。

「凪子ちゃ〜ん!
何してんの〜?」

…まるで春の海のような、のどかな声が響いてきた。

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