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それが運命の恋ならば
第3章 愛と哀しみの夜明け
凪子は驚きの余り、瞬きをした。
「…ご存知…なのですか…?」

桃馬が頭を掻きながら、砂浜に座った。
「…うん…。まあね…薄々と…だけどね」
そうして、凪子にも掛けるように促した。

「…そう。
凪子ちゃんが兄貴の憎っくき高遠家の娘ってことね。
兄貴からこないだ聞かされたよ。
『高遠の娘が見つかったよ。
…これでようやくお母様の仇が取れる…』てね…」
「…仇…」
凪子の胸がずきりと痛んだ。
…やはり、私は…復讐の道具なのだ…。
そんなにも、あの方に憎まれているのだ。

桃馬はぽつりぽつりと語り始めた。
「…俺が産まれてすぐに両親は死んじまったから、詳しくは知らないんだけど…。
高遠の当主が俺たちの母親に乱暴して、それが元で父親との夫婦仲が拗れたことを兄貴はずっと恨んでいたらしい。
…兄貴も俺も父親に全然似てなかったらしくてさ。
父親は疑心暗鬼になったわけ。
自分の子どもじゃないんじゃないか…てさ。
俺が産まれてからも母親は父親に疑われて、ずっと精神的に追い詰められていた…て。
…まあ、俺は赤ん坊だったからさ、何も知らないけれど、兄貴は多感な思春期だったから、ずっと複雑な家庭で育ったわけさ。
…でも、両親が亡くなって、もう十八年も経ったからさ。
さすがに兄貴もすっかり忘れていたかと思っていたら、急に京都の尼寺に出かけてさ。
『…高遠の娘が見つかった。
私の花嫁にする』てさ。
…悪趣味もいいとこだろ。
復讐の為に自分の嫁さんにするなんてさ…」
…言いかけて、凪子の貌が青ざめているのに気づき…

「ごめん!凪子ちゃん。
凪子ちゃんは何も悪くないのにさ。
てか、凪子ちゃんが一番の被害者だよな」
慌てて頭を下げた。

…でもさ…。
桃馬は遠い海に眼をやりながら、静かに続けた。

「…兄貴はね、本当はすごく優しいヤツなんだ。
人を傷つけるような人間じゃない。
けど、母親のことだけは、別らしいんだ。
亡くなった母親の仇を取りたい…その一心なんだよ。
大好きだった母親を苦しめた男に復讐したい。
兄貴の胸にあるのはそれだけだ。
…もちろん間違ってる。凪子ちゃんは何も悪くない。
…それから、自分の花嫁にすることが、本当に復讐になるのか…。
それは、兄貴にも分からないんじゃないかと思う…」

…凪子ちゃんには迷惑な話だよなあ…。
ごめんね…凪子ちゃん。

その言葉は、とても温かかった。
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