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それが運命の恋ならば
第3章 愛と哀しみの夜明け
「…私は…」
凪子は重い口を開いた。

「…今まで、孤児だと思っていました。
それが…母親は亡くなっていて…けれど、父親は今も生きていて…。
その父親が…李人様のお母様に酷いことをして…。
色んなことを一度に聞かされて…混乱しました。
…その上…李人様は私を憎しみからお嫁様に望まれたのだと…」
…愛情の欠片もないのだと…。
それが一番辛いのだ。

哀しみが込み上げ、胸が苦しくなる。
「…私は…どうしたら良いのか…」
涙で足元の白砂が滲む。

「…俺、凪子ちゃんのためを思えば、今すぐここから逃してあげたい。
あんな家や兄貴からさっさと逃げろ…て言ってやりたい。
…でもさ」
桃馬が凪子を改めてじっと見つめた。
「…凪子ちゃんに会って思ったんだ。
凪子ちゃんて、なんか観音様かマリア様みたいだなあ…て。
側にいる人を優しい気持ちにさせるっつーかすべてを受け入れて赦してもらえるっつーかなんつーか…。
あんたといると、なんだか居心地が良いんだよね。
…だからさ、もう少しだけ我慢して兄貴の側にいてやって欲しいんだよね。
…兄貴はさ、ああ見えて本当はすげえ孤独なんだよ。
親父から旅館業を引き継いで数年でホテル業も立ち上げて成功させて…。
それにあの貌だろ?
すげえモテるし、それこそ見合い話や結婚話は腐るほどあるワケ。
でも誰にも興味ないって感じでスルーしててさ。
友だちや知り合いはたくさんいるけど、いつも心から楽しそうにはしてない…て言うか…とにかく冷めているんだよね。
…なんかさあ、誰も信じてない…てゆ〜か、信じられない…て思ってんじゃないかなあ…て。
ま、幼児期のトラウマ…?なのかな」

「…李人様が…」
「そ。
唯一心を許しているのは庭師の禅だけ」
凪子の肩がびくりと震える。

「禅は兄貴のばあやの息子で乳兄弟だからね。
産まれた時からすげえ仲が良いんだよ。
…まあ、禅の兄貴への忠誠心は、ちと度を越してる感じだけどさ。
禅も悪いヤツじゃない。むしろ凄く真面目で情に厚くて漢気があるめっちゃイイヤツだよ」

「…そう…ですか…」

…『奥様を全力でお守りいたします』
そう言って、猛然と頭を下げた庭師の面影が浮かぶ…。

…あのひとは悪くないのだ…。
あのひとは…
李人様の命令に従っているだけだもの…。
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