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第3章 愛と哀しみの夜明け

「…おい、ケンちゃん！いいかげん泣きやめよなあ。
あんたが泣いてどうすんだよ」
桃馬は呆れたようにため息を吐いた。

「…だ、だって…すごく…可哀想なんだもん…！
凪子ちゃんも…リーくんも…！」
ケンはわあわあ泣き続け、ナプキンで盛大に洟をかんだ。

「…うるせえなあ。
泣きたいのは凪子ちゃんだろ？
それに、なんで兄貴が可哀想なんだよ」　

「…だって…」
ケンは涙を拭きながら遠慮勝ちに呟いた。

「…リーくんは、お母様のことをすごく愛していたのよ。
だから、高遠さんのことが許せなかったのよ。
自分の愛する母を不幸にした…て。
…あ、凪子ちゃん、ごめんなさいね」

凪子は寂しく微笑む。
「いいえ。
…私も…そう思います…」
自分の父親と言われるひとが、李人の家族をとても不幸にしたことは分かる。
…だから、自分は李人に愛されない。
いや、憎まれている。

「だからってさ、凪子ちゃんを巻き込んでいいってことはないよ。
凪子ちゃんは被害者だよ。
こんな個人的な怨みで、騙して嫁さんにするなんてさ、おかしいだろ。
騙して凪子ちゃんに何するつもりなんだ？
あの古臭い家に監禁か？
虐めか？
…そんなことしたら俺は黙っちゃいないけどさ！」

言いながら興奮する桃馬を、ケンは感慨深そうに見上げ、呟いた。
「…ふう〜ん…。
…なんだか…複雑な愛が絡み合いそうねえ…」
…そうして、我が身を抱き締めながら身悶えた。
「ああん！いいわあ〜！
美しい男女三人の愛憎物語！
市川崑？五社英雄？
どっちでもいいけど、なんだか萌えるわあ〜！」

「…やっぱケンちゃんに話したのは間違いだったか」
桃馬は、やれやれと首を振った。