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それが運命の恋ならば
第3章 愛と哀しみの夜明け
李人が大股で近づいてくる。
スーツの上着を脱ぎ、ブルーのストライプのワイシャツとスラックス姿だ。
…微かに焦燥と安堵の気配を漂わせているようだった。

「…凪子さん、どちらにいらしたのですか?」
低い美声が凪子の鼓膜を震わせる。
更に一歩近づかれ、凪子は身体をびくりと震わせた。
…昨夜の恐怖と羞恥と…激しい感情が無い混ぜになり、凪子は思わず桃馬の背後に隠れた。

李人の端正な眉が顰められた。

「…凪子さん。
こちらへいらっしゃい」
手を差し伸べる。

桃馬がきりりと眼差しを上げ、凪子を庇うように立ちはだかる。
「兄貴。凪子ちゃんは俺とケンちゃんの店にいただけだ。
…あんまり凪子ちゃんに酷いこと、すんなよ。
じゃないと、俺もあんたに何をするか分からない」

李人の美しい切長の瞳が眇められる。
「何を言っている?」

苛立ったように桃馬が続ける。
「知ってるんだぜ。
兄貴が凪子ちゃんを復讐の道具にしようと企んでいることぐらい。
兄貴は卑怯だ。
凪子ちゃんは何も悪くないじゃないか!
お母様やお父様はもう死んでるんだよ。
いつまでも過去の怨みを引き摺ってどうすんだよ!」

「何…?」

気色ばむ李人と対峙する桃馬の間に、大柄な男が素早く分け入った。
「桃馬様。
それ以上はいけません」
李人の背後に影のように潜んでいた禅が不意に姿を現し、桃馬を静かに諭した。

トキを始め、使用人たちが固唾を呑み、ことの成り行きを見守っていた。

鋭い眼差しを桃馬に当て、李人は冷たく言い放つ。
「私と凪子さんのことは夫婦の話だ。
お前には関係ない」

…そうして、
「そこをどけ」
有無を言わせぬ気迫で桃馬を押しやる。
そのまま無言で凪子の手を取り、足早に離れに向かって歩き出したのだった。

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