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それが運命の恋ならば
第3章 愛と哀しみの夜明け
…筋肉隆々とした逞しい体躯に黒い作業衣、ジョッパーズ、ワークブーツを身に付けた庭師の禅が佇んでいた。

「なんだよ、禅かよ。
ビビらすなよ。
熊かと思った」
軽口を叩く桃馬に、禅は微かに微笑んだ。
その微笑みはとても温かく…凪子は戸惑いを覚える。

「お話中、申し訳ありません。
トキさんが桃馬さんを探しておいででしたよ。
…なんでも担任の先生がお見えになった…とか…」
桃馬は舌打ちをする。
「やっべ!
何がバレたかな。
校長室の窓ガラス割ったことかな。
体育館の緞帳破いたことかな」
「そんなことなさったのですか⁈」
凪子は眼を丸くする。
「窓ガラスはわざとじゃないよ。
ダチと野球しててヒットしちゃったんだよ。
…バックれたけどさあ。
緞帳は…酔っ払ってダチと夜中に忍び込んでつい悪ふざけ…。
とりあえず、俺、裏口から逃げるから!
いないっていっといて!」
言うが早いか、桃馬は裏木戸から走り去ってしまった。

「…相変わらず、逃げ足だけは早いな…」
禅が感心したように呟き、そのまま凪子と眼が合った。

凪子は思わずくすりと笑った。
「…桃馬さんて…いたずらっ子ですね」
禅が驚いたように眼を見開き、少し照れたように瞬きをした。

「…お小さい頃からやんちゃすぎて私の手には負えません。
根は素直な良い方ですが…」
「ええ。
そう思います。
とても優しい方です」

「…奥様…」

…凪子を見つめる禅の眼差しは穏やかで、微かに嬉し気であった。
凪子の禅に対する警戒感は少しずつ薄らいでいった。

…だから、禅が慎み深く眼を伏せ
「…失礼いたしました。
私はこれで…」
恭しく頭を下げ、去ろうとするのを

「…あの…禅さん…。
…少し、お話しませんか…?」
声をかけていたのだった。



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