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それが運命の恋ならば
第1章 出逢い
『嫌なら嫌と言え!
嫁になんか行くな!
俺が…凪子をずっと守る!
俺は…俺は凪子が…!』
滾るような熱い眼差し…。
そのまま手を取られそうになり…けれど、それを遮るように口を開く。
『…雄ちゃん…。
ありがとう…。
…でも、いいの。
私、お嫁に行くわ…』

信じられないように雄大が眼を見開く。
『凪子!なんでや!?』
『…庵主様がいなかったら、私は生きてこられなかった。
だからやっぱり恩返し、しなくちゃいけないわ。
… 庵主様が困っていたら…このお寺を存続させるためなら…私、お嫁に行くわ…』
自分に言い聞かせるように、言葉を刻む。

…あのあと、古参の副住職がそっと打ち明けてくれたのだ。

『…一之瀬様は、この寺に莫大な寄進をしてくれはるお方や。
一之瀬様の胸三寸で、今後この寺はどうにでもなるんや。
…凪子さん、頼んだえ。
あんさんだけが頼りや』

そうして、表情を和らげ、こうも言った。
『一之瀬様は見ての通りの男前やし、人柄もええおひとらしい。
檀家さんの話では、東大出のエリートで、一度は東京の商社に勤められて、最近ご実家の家業を継がれたらしいんよ。
今では地元でおおきな旅館をいくつも経営されている実業家やそうや。
だから縁談は降るようにあったらしいんやけど、ずっと断ってはったそうや。
…それが不意に…昨日いきなりあんたのことを訪ねてこられてなあ。
どうしてもあんたをお嫁様に欲しいの一点張りでなあ。
そら、あんたからしたら急すぎて心の整理がつかへんかもやけど…。
凪子さん、これはどう見ても玉の輿や。
こんなええ話、めったにあるもんやおへんえ。
…しっかり幸せ掴み』

…別に凪子は、一之瀬李人の容姿や資産に心が揺れたわけではない。
自分が嫁にゆき、この尼寺が存続するなら恩返しできる。
綺麗さっぱり後腐れなく、縁が切れる。
そうして…ここから自由になれる。
この古く薄暗い暗鬱とした尼寺から…。

…新しい人生を始められる。

考えても見なかった、まっさらな新しい人生を…。

凪子は雄大を見上げ、しっかりと自分に誓うように告げた。

『雄ちゃん。私、お嫁に行きます。
そうして、新しい人生を生きたいの。
…ううん、生き直したいの』

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