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それが運命の恋ならば
第4章 闖入者
間宮を玄関まで見送り、ほっと息を吐く。
…空を見上げると、美しい夕焼けがどこまでも広がっていた。
李人の帰宅までにはまだ大分時間がある。
今日は経営するホテルに大株主が宿泊に来るので、接待があると言っていたからだ。
凪子はまだ離れに戻る気になれず、ゆっくりと月見台のある庭園の方へと足を向けた。
月見台はなだらかな丘陵の上にある。
そこからは海が一望できるのだ。
「…あ…」
凪子は脚を止めた。
月見台脇の欅の樹からするするとまるで忍者のようにひとりの男がロープを伝って降りてきたのだ。
「…禅…さん…」
黒いタンクトップに黒いジョッパーズ、黒いワークブーツ姿の禅は長い髪を後ろで一つにまとめ、バンダナで結んでいた。
…男と眼が合う。
漆黒の瞳は、夜の深い海の色だ…。
心臓の鼓動が速くなる。
…あの夜…以来だ…。
「奥様…」
音もなく軽やかに地面に着地すると、禅は凪子に恭しく一礼をした。
「失礼いたしました。
驚かせてしまいましたね」
凪子は思わず上を見上げ、尋ねた。
「…今、木から降りてこられました?」
男は、まるで神業のように空中にふわりと浮かびながら…そして、あっと言う間にしなやかに降りて来た…。
禅がロープを巧みに束ねながら、微かに微笑んだ。
「ええ。頂上の枝振りを見ていました。
この樹は古い木ですので、定期的にチェックする必要があるんです。
…私にはアーボリストという資格がありますので…」
「…アーボリスト…?」
凪子は不思議そうに小首を傾げた。
聞き慣れない言葉だった。
禅が欅の幹に大きな手で触れながら、答えた。
「このような大木に登る庭師のことです。
…私は英国のキューガーデンという園芸学校に二年ほど留学していました。
その学校でアーボリストの資格を取りました」
…空を見上げると、美しい夕焼けがどこまでも広がっていた。
李人の帰宅までにはまだ大分時間がある。
今日は経営するホテルに大株主が宿泊に来るので、接待があると言っていたからだ。
凪子はまだ離れに戻る気になれず、ゆっくりと月見台のある庭園の方へと足を向けた。
月見台はなだらかな丘陵の上にある。
そこからは海が一望できるのだ。
「…あ…」
凪子は脚を止めた。
月見台脇の欅の樹からするするとまるで忍者のようにひとりの男がロープを伝って降りてきたのだ。
「…禅…さん…」
黒いタンクトップに黒いジョッパーズ、黒いワークブーツ姿の禅は長い髪を後ろで一つにまとめ、バンダナで結んでいた。
…男と眼が合う。
漆黒の瞳は、夜の深い海の色だ…。
心臓の鼓動が速くなる。
…あの夜…以来だ…。
「奥様…」
音もなく軽やかに地面に着地すると、禅は凪子に恭しく一礼をした。
「失礼いたしました。
驚かせてしまいましたね」
凪子は思わず上を見上げ、尋ねた。
「…今、木から降りてこられました?」
男は、まるで神業のように空中にふわりと浮かびながら…そして、あっと言う間にしなやかに降りて来た…。
禅がロープを巧みに束ねながら、微かに微笑んだ。
「ええ。頂上の枝振りを見ていました。
この樹は古い木ですので、定期的にチェックする必要があるんです。
…私にはアーボリストという資格がありますので…」
「…アーボリスト…?」
凪子は不思議そうに小首を傾げた。
聞き慣れない言葉だった。
禅が欅の幹に大きな手で触れながら、答えた。
「このような大木に登る庭師のことです。
…私は英国のキューガーデンという園芸学校に二年ほど留学していました。
その学校でアーボリストの資格を取りました」