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それが運命の恋ならば
第4章 闖入者
「イギリスに?すごいわ…!」
凪子が思わず眼を丸くする。

禅は控えめに微笑んだ。
「私はすごくはありません。
旦那様が留学費用をすべて出して下さったのです。
海外で庭師としての見聞を広め、さまざまな経験を積むように…と」

「李人様が…?」
「はい。
旦那様はとてもお優しい方です。
特に教育に大変ご理解があり、私たち使用人にも学びたいものには通信や夜学で学ぶチャンスも下さいます。
もちろん費用も出して下さいます。
教育は何よりその者の財産になると仰って…」

「…そうですか…」
凪子は頷いた。
…確かに、そうなのだろう…。
憎い筈の私にもわざわざ家庭教師を手配してくれて、教育を受けられるようにして下さった…。
…優しい…方なのだわ…。

…でも…。

「…旦那様の夜のお貌を気に病んでいらっしゃいますか…?」
心を見透かしたような禅の言葉に、思わず息を呑む。
…そう。
眼の前にいる男は、自分の恥ずべき痴態を何もかも見続けたのだ…。
表情が強張る凪子を、辛そうに禅は見つめ返した。

「…奥様にとって、私は忌むべき共犯者…ですよね…。
私のことを殺したいほどに憎いと思われても無理はない」
強い言葉に、はっとして男を見上げる。

「…そんな…そんなことは…」

…どこか哀惜を帯びた夜の海の色の瞳が、凪子をじっと見つめていた。
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