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秘匿の闇市〜Midnight〜
第5章 禁じられた二人


「あさひちゃん、普通の格好、似合うね」

「有り難うございます」

「何、願ったの」

「無病息災……」

「ま、それくらいしかないか」


 離れて暮らす父親に、昨年よりたくさん会えますように。彩月のことを、もっと知れますように。…………


 あさひが神に願ったところで、どうにも出来ない。あさひの願いを叶えられるとすれば、人智を超えた力ではない。佳子だ。


 家族連れや友人グループ、睦まやかな二人組があさひらとすれ違っていく中で、美影は正月らしくない。
 早い話が、ベージュのコートにシンプルなジーンズ、緩く巻いた黒髪は右耳の近くにシュシュでまとめて、つまり彼女の格好が、普段と変わらないのだ。


「美影さんと彩月さんって、晴れ着にトラウマでもあるんですか?」


 これくらいの疑問なら、はしたなくはないだろう。探究心は女の質を下げるものでも、会話の続かない女もいずれ見切られると、あさひは育江に聞かされたことがある。


 しかし、美影はあさひを鼻で笑った。


「あー、ごめんごめん。あさひちゃんの着眼点、面白いなって」


 …──面白いことを訊いた覚えはない。


「可愛い子に心配されていたくないから、誤解は解いとくと、動きやすいからこうなだけ。彩月は彼女連れてる彼氏達に優越感を覚えるからー、とか言ってたな。家政婦ちゃん達、モデル並みの子多いしね。周り見てみな?」


 確かに、道行く男女の二人連れの大半は、女の盛装が目立つ。女の二人連れなら晴れ着同士も珍しくないが、あのフェミニストな家政婦のこと、女に対抗心はないのだろう。
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