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秘匿の闇市〜Midnight〜
第5章 禁じられた二人
「それはそうと、お母さんだよ。急に別荘、二つも買っちゃって。眺め最高で、海や温泉もあるんでしょ。どうしたの?」
「働いていた頃の貯金を、使うことにしたのよ。あんた達は自立してるし、私が遺産なんか残しても仕方ないから」
「まぁ、お母さんの自由だけど。宝くじ当たったって誤解されちゃうから、あまり派手なことはしないでね。あ、別荘には行かせて。あさひも行くでしょ?」
「えっと……」
あさひは、隣の彩月を瞥見する。
「行けば。元はと言えば、あさひのものみたいなものだろ」
「え……?」
「あっ、多分、おばあちゃんと血が濃いのが私だって意味……でしょ?」
あさひを売って得た金だなどと、志乃が気づけば失うものがあまりに大きい。
そういうことにしておけば、と、彩月が投げやりに頷いた。
「なるほどね。じゃあ、私のものでもあるってことだ。別荘行こうね!楽しみだね!」
従姉妹達まで巻き込んで、志乃が無邪気に盛り上がっている。
ややあって、町内の仏壇の花を代えてくるからと言って育江が出て行くと、あさひは彩月の袖を引いた。
ただ触れたい。
それだけで彼女に視線を送って伝わろうとは期待してもいなかったのに、甘えん坊だと微笑んで、彼女はあさひの腰に腕を回した。
…──あたしはあさひを幸せにします。
今朝の言葉が耳の奥に蘇る。もしあさひが佳子のものでなければ、淡い期待に胸を顫わせてもいたろうか。