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秘匿の闇市〜Midnight〜
第5章 禁じられた二人







 旅にでも出ていた気分だ。

 館を離れた二泊三日は、あっという間だった。

 一抹の寂しさも覚える反面、あさひは、まるでケージを抜け出してきた小鳥だ。外の世界を懐かしんで、ほど良く飛んだところで帰路を得て、安堵に羽根を休めているのに似ている。


「少しは逃げたいって思わなかったの?」


 私室に戻って開口一番、彩月があさひに問うてきた。


「どうしてですか」

「あさひには、周りに相談出来そうな大人がいる。今の状況に本気で納得してるなら、筋金入りの変態だよ」

「──……」


 例の公園での光景が、あさひの脳裏に蘇る。

 あの競売でも、ほとんどの商品達が、暗い表情で震えていた。意気揚々と落札されていったのは、あさひを除けば、上原きよみという女くらいだ。


 もとよりあさひは、彼女らとは状況が違う。

 物心ついてからずっと、何不自由ない生活を送った。
 育江のお陰だ。その祖母の教えに従って、恩を返す。それ以上の喜びなど、思いつかない。


「目上の人の教えてくれることは、間違いありません。血の繋がったおばあちゃんなら、尚更です」



 …──逃げたとして、どこへ行けば良いんですか。



 あさひと彩月では、きっと根本から違う。

 彼女は自由で、女としての幸福や、どうあるべきかなど、きっと教えられたこともない。奉仕する相手の機嫌を窺ったり、性的に媚びたり、あさひが学んだ事柄に、彼女が準じる姿も想像し難い。
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