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秘匿の闇市〜Midnight〜
第5章 禁じられた二人
「救いようがないな」
「っ……」
睦言でもささめく調子の甘い声が耳の至近に触れた途端、あさひの肩が彩月の腕に収まった。
髪が、吐息が、うなじをくすぐる。抱擁に囚われたのはあさひ自身なのに、心臓の方がじかに締めつけられるような苦しみに怯む。
「お前は、女を消費されてるって気づいていない。誰のために生きたいか、考えたこともないんだろう。お気楽で羨ましいよ」
「それとこれとは……。でも、私も、おばあちゃんの教えは正しいと思っていますし……」
少なくとも、あさひは自分自身のために生きることを、もう望めない。この肉体は、一億五千万円という枷に繋がれている。
それでも育江の教えに従った結果、幸福だ。
「ひっ……ぁっ」
乳房の鈍痛に悲鳴を上げかけたのと同時に、顫え上がるような快感が、総身を駆け抜けていった。
彩月のキスが、あさひの耳朶をじんとさせた。それをなぞるようにして、彼女の舌があさひの聴覚の周辺を這い、唇が首筋を吸い上げる。
心臓に近い方の膨らみを、彼女の片手が歪ませる。痛いほど乱暴なまさぐりが、あさひの腰の深奥へ、もどかしさを響かせる。
あさひの利き手に絡みついていた彩月の片手が、内股に滑り込んでいく。
「あぁっ……はぁっ、……さ、彩月さん──…?アアッ……」
佳子の命令は、ないはずだ。昨年の買い出しの時とも違って、彼女があさひの声をどこかに録音している感じもない。
それなら今、まるで切り取られた世界の片隅で、ただ彩月はあさひに触れているだけだ。