この作品は18歳未満閲覧禁止です
- 小
- 中
- 大
- テキストサイズ
秘匿の闇市〜Midnight〜
第5章 禁じられた二人
「何、で……──あっ」
特別に重量のないあさひの身体は、彩月ほど細腕の女にでも、ほとんど軽々と持ち上がる。
まるで姫君をさらう騎士でも彷彿とする抱きかかえ方で、あさひは彩月に宙に浮かされていた。
そのまま寝台に投げ出される。
「ぐぁっ」
顔を上げると、端正とれた顔立ちがあさひを見下ろしていた。
くっきりとした目許に煌めく、ガラスのように繊細な瞳。この世のものとは思えない。その奥をじっと見つめていると、胸が迫る。得体の知れない、深い悲しみを見出してしまいそうになる。
「彩月さん、……何か……どうかされ、まし──…んっ、んっ……」
あさひの唇と彩月のそれが、距離を失くした。
両脇の行く手を遮られていた。有無も言わされずに唇を奪われているのに、あさひはうっとりと目を細める。
やはりあさひは彩月の指摘する通り、考えなしだ。娼婦の孫だ。
生ぬるい舌の感触が、あさひの唇をこじ開ける。閉じた花びらを無理矢理はだいて、蜜腺を確実に貪る蝶のようなキスに、悲しみも遠ざかっていく。
「はぁ、はぁ──…」
「押し倒されて、こんなことされて。息乱す女とか、マジでただの肉便器だね」
あさひには弁解の余地もない。
「ァッ……」
喉を強く吸い上げながら、彩月があさひの両手首を片手に掴んだ。片脇に押さえつけられたそれが、どくどく動脈の音を立てる。
「どうしたら、壊れるの?」
「え……」
「人生終了した雌豚が、どうしたら泣き喚くのか訊いてるんだよ」
…──どこまでお前を傷つければ、売られた境遇を嘆くのか。
「…………」
きっと泣けない。
今でさえあさひは、興奮して顫えている。目の前の玲瓏な女に、目も心も奪われている。
ふっ、と、手首に加わっていた力が抜けた。
責めるような口先とは真逆の指が、二つの胸の間を降りていく。