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秘匿の闇市〜Midnight〜
第5章 禁じられた二人


「何、で……──あっ」


 特別に重量のないあさひの身体は、彩月ほど細腕の女にでも、ほとんど軽々と持ち上がる。

 まるで姫君をさらう騎士でも彷彿とする抱きかかえ方で、あさひは彩月に宙に浮かされていた。

 そのまま寝台に投げ出される。


「ぐぁっ」


 顔を上げると、端正とれた顔立ちがあさひを見下ろしていた。

 くっきりとした目許に煌めく、ガラスのように繊細な瞳。この世のものとは思えない。その奥をじっと見つめていると、胸が迫る。得体の知れない、深い悲しみを見出してしまいそうになる。


「彩月さん、……何か……どうかされ、まし──…んっ、んっ……」


 あさひの唇と彩月のそれが、距離を失くした。

 両脇の行く手を遮られていた。有無も言わされずに唇を奪われているのに、あさひはうっとりと目を細める。


 やはりあさひは彩月の指摘する通り、考えなしだ。娼婦の孫だ。


 生ぬるい舌の感触が、あさひの唇をこじ開ける。閉じた花びらを無理矢理はだいて、蜜腺を確実に貪る蝶のようなキスに、悲しみも遠ざかっていく。


「はぁ、はぁ──…」


「押し倒されて、こんなことされて。息乱す女とか、マジでただの肉便器だね」



 あさひには弁解の余地もない。


「ァッ……」


 喉を強く吸い上げながら、彩月があさひの両手首を片手に掴んだ。片脇に押さえつけられたそれが、どくどく動脈の音を立てる。


「どうしたら、壊れるの?」

「え……」

「人生終了した雌豚が、どうしたら泣き喚くのか訊いてるんだよ」



 …──どこまでお前を傷つければ、売られた境遇を嘆くのか。



「…………」



 きっと泣けない。

 今でさえあさひは、興奮して顫えている。目の前の玲瓏な女に、目も心も奪われている。


 ふっ、と、手首に加わっていた力が抜けた。

 責めるような口先とは真逆の指が、二つの胸の間を降りていく。
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